気候変動・CO2排出の「損失と被害」 エジプトが先進国に拠出金を要請!

2022年11月8日からエジプト(シャルムエルシェイク)で開始されたCOP27は、昨年のCOP26に比べて盛り上がりに欠けることが否めません。ちょど米国の中間選挙と重なったことから、選挙の喧騒にかき消されてしまったようです。

静かなオープニングとはなったものの、COP27は途上国から先進国に支援金を要請することからショッキングに幕を開けました。今回の議事長国であると同時に、途上国の代表者でもあるエジプトは、先進国が気候変動への義務を果たしていないことを強く指摘しました。

いわゆる豊かな国に属する日本人には、想像できないかもしれませんが、途上国の多くは気候変動の影響をダイレクトに受け、日々の暮らしもままならない人たちが数多くいるのです。

先進国に支援金を要請とはいったいどういうことなのか、ちょっと詳しく見ていきましょう。

地球の気候変動とパリ協定

パリ協定による先進国の義務と責任

これまでは気候変動や地球温暖化などと聞いても、ピンとこなかったものです。しかし、ここ数年の暖冬や酷暑、急激に上下する気温、相次ぐ水害などで気候変動を肌で感じている方は多いのではないでしょうか。

産業革命以来の工業や産業の発達によって、地球上に大量のCO2(GHG/グリーンハウスガス)が排出され続けました。CO2はオゾン層を破壊、海水の温度や気温を上昇させ深刻な気候変動を引き起こしています。

CO2は密度が濃くなるほど人体や自然環境に悪影響を及ばし、ひいては死に至ることもあるほど危険なガスなのです。いわゆる有毒な排気ガスが充満することによって、自然環境が破壊され気候に異常をきたしているのです。

1990年代あたりから、地球の気温上昇が問題視されており、CO2(GHG/グリーンハウスガス)排出量の増加が主な要因となっていることが究明されています。

2015年、長年の葛藤と対立の末、ようやく世界は「パリ協定」で結ばれ気候変動解決に向けて動き出しました。近年の脱炭素やカーボンゼロも、「パリ協定」がきっかけとなっています。

そもそもパリ協定とは?脱炭素・カーボンニュートラルが地球温暖化を解決する!

パリ協定とは

パリ協定とは

深刻化する気候変動・温暖化・環境破壊を各国で協力して解決していくと約束する協定です。

気温上昇の要因となっている、CO2排出量を減少させる(あるいはゼロにする)ことで、気候変動の解決していこう、というのがパリ協定の目的です。

パリ協定の3つの基本原則

  1. 気温上昇率を2℃以下に下げる(1.5℃の上昇率を目指す)
  2. 各国は5年おきにCO2削減目標を設定、データを報告する義務がある
  3. 気候変動対策に基づき、途上国・新興国への資金援助を行う

197か国によって合意された「パリ協定」では、地球CO2排出量が多い先進国は、CO2排出量が少ない途上国を支援する義務、責任があるとされているのです。

先進国は途上国を支援する義務・責任がある

1750年~2020年 CO2排出量ランキング

出典:Top CO2 Emitting Countries, 1750~2020 – Investopedia

750年から2020年にかけて、CO2排出量のトップは米国、続いて中国、ロシア、ドイツ、英国、日本、インド・・・となり経済規模が大きいほどCO2排出量も多くなる傾向にあります。

CO2排出量マップ 2022

出展:Carbon Footprint – World Population Review

世界地図でCO2排出量を国別に見ると、大まかにG7国あるいはG20国がCO2排出量が多い国であることがわかります。

アフリカや北アメリカ、アジア、の途上国は工業や産業がそこまで発達していないため、当然ながらCO2排出量も少ないのです。

CO2排出量が多いからといって、多い国だけに気候変動が生じるわけではありません。先進国が率先して排出した大量のCO2は地球全体の気候に異変を起こさせてしまいます。

つまり、途上国は先進国が排出したCO2によって気候変動の被害を受けていることになるのです。途上国の多くは貧しい国で、いざという災害に対応できず困難な状況にあります。

そこで、「パリ協定」の規定に沿って、先進国は途上国に年間1,000億ドル(約15兆円)の支援拠出金を約束しているのですが、一度も約束どおりに拠出金が払われたことはない、と不満の声が上がっているのです。

今年開催された、パリ協定加盟国の国際会議COP(コップ)では、エジプトが途上国を代表して、先進国の支援金が不足している点を強く訴えています。途上国からすれば「先進国のCO2によって損失・被害を出しているのにこれではあまりにも不公平だ」という話になっているのです。

出典:東京新聞

参照:気候災害が続発 – 途上国支援がCOP27の争点 – 東洋経済

参照:温暖化対策を言葉に出しても金は出せず – 東京新聞

昨年は英国でCOP26が開催され、2022年はエジプトがCOP27の開催地となっています。

毎年COPでは、先進国が声高らかに「巨額の支援金」を表明するわけですが、支払われなければ意味ないということです。COP27では、具体的な先進国の支援が最大のテーマだと強調しています。

COP27とは?環境問題を議論するCOPについてわかりやすく簡単に解説

世界をおそった異常気象

では実際にどんな災害が気候変動から生じているのか、途上国を中心にいくつか見ていきます。

500年に一度の大干ばつ

気候変動による代表的な災害の1つが干ばつです。深刻な干ばつが出現し始めたの2019年の南アフリカ。5年間で降った雨は1度だけ。穀物生産は半分以下に減少し、4500万人が飢えに苦しみました。

2021年、2022年もアフリカや欧州、世界各地で干ばつがおそい、過去500年で最も深刻な干ばつであることが報告されています。

ケニア、ナイロビ、ダカール、ソマリア、エチオピアなどは現在でも水不足に多くの人たちが厳しい状況で暮らしています。たった1杯の水を飲むにも何kmも歩いていかなければならないのです。せっかく長い距離を歩いても、コップ1杯の水が入手できないことすらあるのです。

参照:アフリカ干ばつ – ユニセフ

参照:エチオピア干ばつ – ユニセフ

猛烈な熱波で山火事が続く

そして、ここ2,3年で急激に増えたのが熱波による山火事です。気温が上昇しすぎて、枯葉や油分を含んだ植物に自然発火で火がつき山火事へと発展します。

2022年の英国・欧州では40度以上の高温を記録。オーストラリア、カナダ、米国でも山火事が続発し、アルゼンチン、ウルグアイ、バラグアイ、ブラジルなどでも歴史的な熱波が発生しています。

アフリカ、スーダン、イラン、イラク、サウジアラビア、インドなどはもともと持続的な高温が多い国で、気温が50度を超えることもあります。熱波のリスクが非常に高い地域です。

参照:途上国をおそう殺人的猛暑 – Newsweek

参照:4人1人が高い頻度で熱波にさらされている – SUSTAINABLE BRANDS

豪雨・洪水・水害

熱波や干ばつのリスクは低い日本ですが、台風や豪雨は昔から多い国です。気候変動による水害がここ数年は相次いでいますね。世界各地でも、これまでにない頻度で大規模な水害が多発しています。

2022年4月は南アフリカ、5月ブラジル、インド、米国 6月中国、欧州、パキスタン、7月オーストラリア・・というように毎月どこかの国だ大洪水が起きているのです。

出典:World rocked by 29 billion dollar weather disasters – Climate Connection

上図は、1980年以降に200億ドル(2兆円)以上のダメージを出した洪水の数です。明らかに2000年以降は急増しているといえます。

途上国の多くは突然の水害に対応できる設備や公共システムを持ちません。途方にくれ、衣食住に困る人も少なくないのです。衛生面の不備から、感染病が横行することもあります。

6月のパキスタンの洪水では国土の3分の1が水没。死者数は1500人を超え、被害額は100億ドル(1兆円)以上でした。

参照:致命的な大洪水が世界同時多発 – AXION

参照:2022年上半期に起こった世界の異常気象

欧米がウクライナに費やした支援金

さて、先進国が約束した拠出金は未達成の状況にあるのですが、先進国は先進国でコロナ収束からロシア・ウクライナ問題が始まったことによって、予定外の支出に見舞われています。

最も大きい支出となっているのが、ウクライナへの支援金(軍資金)です。

ウクライナへの支援金(国別)

出典:Ukraine Support Tracker

上図は、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月24日から10月3日時点での、支援金のデータになります。米国が群を抜いてトップで、費やしたウクライナへの支援金はトータルで523億ユーロ(約530億ドル/6兆円)です。次に多いのがEUで、それでも米国の約3分の1ぐらいです。

NY Timesによると、米国は5月時点でウクライナへの支援金540億ドルを承認しています。

そのうち、軍事支援の比率が極めて大きくなり260億ユーロ(約280億ドル/3兆円)、支援金の50%以上は武器や軍関連に使われています。

米国のウクライナ支援は元をたどれば、結局は米国の納税者から捻出されたものです。あまりにも行き過ぎた支援に批判的な声も少なくありません。支援金を送り続けるからゼレンスキーは停戦交渉に臨まないとの声も聞かれています。

バイデン大統領の支持率は40%以下に低下。メディアではあえて報道されていませんが、欧州ではEU委員会や米国・NATOのやり方に抗議するデモが相次いでいます。

欧米は、ウクライナ支援と止まらないインフレとエネルギー高に追われ、気候変動どころではない状況がうかがえます。欧州は、脱ロシアに執着するあまり石炭を復活させるなど、脱炭素をあきらめているほどです。

エジプト・COP27が途上国を代弁し、欧米は他にも優先すべきことがあると、今まさに訴えているのです。

まとめ

欧米はウクライナに武器・支援金を提供、その結果ロシア・ウクライナの戦争は悪化。加えて、ロシアへの経済制裁にてインフレを加速させている段階です。

本来なら、停戦・和解へと舵をとるべき世界のリーダー達が揃いもそろって戦争を支援。戦争のために子供たちを引き合いに公然と募金までしているとは、まさに世も末です。 

莫大な資金を他人の懐から費やしておいて、ゼレンスキーは平然と気候変動が遅延するのはロシアのせいだという。いったい誰のせいなのか、憤る途上国やエジプトの気持ちがわからないでもないですよね。

それだけの資金があれば、どれだけの再エネ投資や途上国の支援に使えたことでしょうか。もうこれは、リーダーシップの欠如としかいいようがありません。

気候変動を本気で解決し、輝かしい未来を切り開くためには、もしかしたら全く別のリーダーが必要なのかもしれないですね。

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