最近の原油価格は高騰と急落を繰り返し激しく変動しています。
欧州・米国の消費者物価指数と利上げ予想、インフレーションにリセッション、さまざまな要因が原油価格を左右する中、果たして今後の需要はどうなのでしょうか。
IEA(国際エネルギー機関)が公表した8月11日の最新情報によると、2022年後半~2023年にかけての原油需要は伸びるとの見通し。7月時点で予想されていた原油需要を上方修正しています。
今回は、IEAやOPECプラス、そして市場における今後の原油需要の見通しをまとめておきました。原油や天然ガス、エネルギー投資の参考にしたい方はぜひ一読しておいて下さい。
2022年8月11日公表の「IEA(国際エネルギー機関)の原油需要見通し」では、2022年~2023年にかけての原油需要は強まるとの見方。7月の原油の需要予測を引き上げています。

11日のIEA公表をうけ、88ドルの安値をつけていたWTI原油は約3時間足らずで92ドルまで急上昇、その後12日には95ドルまで回復しています。
8月の原油価格はおおむね100ドル以下で推移してはいるものの、いまだに長期的には高値圏にあり、さらに価格は高騰するとの見方も少なくないようです。
WTI原油価格

実は、7月時点では、EIA(米エネルギー情報局)ならびにIEAやシティー・グループによる原油需要の見通しは、利上げとリセッションへの懸念から3分の1以下に下方修正されていました。
従来の需要予想では日量240万バレル~250万バレル、シティ・グループの最悪のシナリオでは原油価格は65ドルまで下がるとの見解だったのです。
今回のIEA原油需要の上方修正の背景には、
- 天然ガス価格が高騰 → 代替えで原油に移行
- 発電需要の伸び → 原油の火力発電への需要
- EUの天然ガス消費抑制 → 代替えで原油に移行
があるとの見方です。

最新予測では、2022年の世界の原油需要は前年比で増加幅211万バレル(2.2%)で9970万バレル。23年は同2.1%増の1億181万バレル。
おもにEUと中東が原油需要をけん引きするだろうと想定しています。


IEAが上方修正を公表する一方では、11日にOPECプラスは2022年世界の需要見通しを26万バレル引き下げて、日量1億3万バレルとしています。見通しを引き下げた理由に、新型コロナ・ロックダウン規制の復活と地政学的リスクの緩和が不確実な点を挙げています。
ただ、増加幅は引き下げられてはいるものの、IEAの予測よりは依然として高めの予想です。
23年は22年比にて増加幅270万(2.7%)バレルと前回予想を据え置くかたちになっています。

OPECプラスの見解では23年の増加幅2.7%の背景には、
- 新型コロナウイルスの感染拡大から急回復が見込まれる
- 中国の重要が回復し、世界的な経済成長が期待できる
とおもに2つの要因を指摘。コロナ前の需要レベルに戻る可能性もあるとし、楽観的な見通しを示しています。

供給量予測に関しては、当面はインフレ・利上げによる経済成長の不透明感が残るため、これまでと変わらず十分に注意して判断していきたいとのこと。
米バイデン大統領が中東訪問にて期待したような増産は見送られているようで、今のところ需要と供給のバランスは非常に微妙な状況です。WTI原油価格は90ドル台前半からは伸び悩んでいるといえます。
価格伸び悩む理由に、EU・USとイランの間で交わされる核合意の存在があります。もし、核合意が正式に合意に向かうならイランの原油供給量が一気に増加、原油価格の急落につながる可能性があります。
原油価格の見通しは、FRB利上げがどれくらいのペースで進むのか、そしてOPECプラスの増産ペースはどの程度変わっていくのか、またイラン核合意がどう展開していくのかが直近の重要なキーポイントとなりそうです。
原油需要を押し上げた理由として、IEAは天然ガスの高騰による代替えとして原油需要が伸びる点を強調しています。
どういうことなのかというと・・・
IEAの見解では「今年の冬には、ロシアからの天然ガスの供給が完全に止まる可能性がある」と見ています。
6月、7月にはロシア・欧州間をつなぐガスパイプライン(ノルドストリーム/Nord Stream)は、メンテナンスを理由に一時的に停止しました。

欧州は万が一の事態に備えて、今冬分のガスを十分に留保しておくよう「欧州ガス需要削減計画」にて、欧州全体に呼び掛けています。

欧州各国はガスの消費量を最小減に抑えるために制限をかけている状況です。
天然ガスの代替え策として、石炭、原子力発電、そして原油へとエネルギーの移行が進めらています。

天然ガス先物の価格は、8月現在は8.5~9.0ドルあたりで推移。6月・7月には9.5ドルの高値をつけています。
欧州以外のアジアや中東などでも、割高な天然ガスから原油へと代替えを進める動きが見られているようです。


原油需要が強まるとすれば、原油価格は今後どのような展開になるでしょうか。相応に原油の供給量の増加が見込めない限り、原油価格も再び想定以上に高騰する可能性があります。
IEAやOPECプラスの予想では、いずれの場合も原油需要は2023年には少なくとも2.0%以上は拡大するとの見通しでいます。
ところが、JPモルガン・チェースの見解では、あきらかに現在のOPECプラスの増産スピードでは需要に追い付いていけない、と見ています。

7月に入ってからは、利上げ&リセッションの懸念から原油価格は4月以来の安値をつけ100ドル以下で推移。原油高・燃料高も終わりに近づいているか、と期待する声もあるようですが、現状は全く逆だとのこと。
需要と供給の関係からいけば、むしろ向こう数か月は原油の価格高騰が続いてもおかしくはないとの見解です。
加えて、需要に見合った増産がOPECプラスから欧米による制裁が強化されればロシアの報復的な減産につながるとのこと。
ロシアの減産量をカバーできるようなキャパシティは今のところOPECプラスにはない、そうなれば、原油価格は1バレス380ドルに達する可能性すらあるとの見方を示しているのです。
原油の価格動向は、
- 利上げ → ソフトランディングで原油上昇?
- 米国・欧州・中国の経済成長 → 経済が強いと需要増で原油高騰?
- インフレ・リセッションの可能性 → 過度なインフレから需要低下?
- OPECプラスの増産 → 増産ペースが進めば原油急落?
- ロシアの減産 → 減産が進めば供給不足で高騰?
- イラン核合意 → 合意となれば原油急落?
などが重要なチェックポイントとなるでしょう。
原油需要が伸びることで、もし供給懸念が持ち上がれば、天然ガス同様に原油価格も再び高騰していく可能性は否定できないでしょう。
しかしながら、原油価格は単純に供給不足だからとストレートに高騰に向かうとは限りません。6月以降の原油価格の動向は、必ずしも需要と供給のバランスのみに左右されているわけではないことが指摘されています。
実際の現物取引と金融先物商品との原油価格には大きな隔たりがあるとのこと。WTI原油先物の価格には、市場・投資家の懸念や不安がダイレクトに、時には必要以上に反映される傾向にあります。同様に、供給量が増えたとしても一概に下落に向かうとはいえない、不可解な投資家心理も存在します。
需要と供給のバランスもさることながら、市場のムードを敏感に察知していくことが、今後の原油投資では成功のコツとなり得るでしょう。

