欧州は、5月30日の原油輸入禁止を皮切りにロシア産エネルギーの経済制裁の拡大を決意。今後深刻なエネルギー不足に陥ることが予想されています。今年の冬に向けてのエネルギーを確保していくために、しばらく停止していた石炭火力発電所を再稼働させる方針です。
近年の世界的なカーボンニュートラルの動きでは、世界をリードしていた欧州ですが、ロシアとウクライナの対立から状況は一転してしまったようです。
今回は、欧州が石炭に頼らざるを得なくなった理由と、今後のガス・石炭需要の見込みを検証していきます。
ドイツ、イタリア、オーストリア、そしてオランダではロシア産ガスに代わる燃料として、石炭火力発電所を再スタートさせました。
石炭はとくにCO2排出量が多いとされているエネルギーです。一旦は石炭の利用停止に向けて急速に舵をとった欧州ですが、ロシア産エネルギーの輸入禁止によって石炭火力発電の再開を余儀なくされたわけです。

今回の石炭火力発電の再開は、暖房エネルギーへの需要が増加する冬に向けて十分なエネルギーを備蓄することが目的とされています。
欧州は需要が比較的に少ない夏のうちに、十分な在庫を確保する必要があるのです。
欧州とロシアは、土地続きなこともあり切っても切れない関係にあります。双方の利害関係・力関係が複雑にからみあって、昔から対立と結束を繰り返してきました。

欧州は大半の原油・ガスをロシアから輸入。ウクライナ問題が上がる以前は、比較的に良好な関係にあったといえます。
欧州とロシアのかつての友好関係を表す建設物の1つに、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム」があります。海底のパイプラインから直接ガスが輸送できるシステムです。
2022年は、2本目のガスパイプライン「ノルドストリーム2」が建設される予定でした。

しかし、2本目の「ノルドストリーム2」の建設が軌道に乗り出した頃、ロシアとウクライナの対立が悪化。欧州はロシアを非難する手段として、対ロシア側にまわることになったのです。

実は、この2本目のガスパイプラインがロシア・ウクライナ問題のすべての根源だといっても過言ではありません。欧州、米国、NATO、ロシアの複雑な主導権争いがかかわっているのです。
ガスパイプラインについては、また別の機会に詳しく・・・
ロシア・ウクライナ問題が深刻化し始めた3月時点では、
ロシア産エネルギーの代わりを見つけることは困難、当面はロシア産エネルギーへの経済制裁は例外とする
参照:https://www.nikkei.com/article/
とドイツのショルツ首相は表明していました。欧州としても、ロシアへの制裁は結局自らの首を絞めることになること、しばらくは過度な制裁は見送ってきました。

ところが、米国・欧州その他G7国が進める経済制裁にもロシアは全く動じる気配が見えません。むしろ、火に油をそそぐ状態となり、ロシア・ウクライナ問題は依然として悪化の一路をたどることになります。
米国も欧州も「今さら後にはひけない」状況になってしまった、というのが正直なところではないでしょうか。
5月30日、欧州はとうとうリスクを承知のうえで、ロシア産原油の輸入禁止に踏み切ります。

欧州での消費約40%を占めるロシア産ガスの輸入も、現在停止の方向で進んでいます。2022年末には、ほぼ90%のロシア産エネルギーの輸入を停止する計画でいます。
ロシア産エネルギーのあてがなくなった欧州は、現在イスラエルやエジプト、カタールなどと契約を結び埋め合わせに急いでいます。しかし地理的要因、輸出国のキャパシティなどの問題があり容易ではありません。
何はともあれ、まずは本年度の冬に向けての準備として石炭火力発電を再開せざる得ない状況となったのです。
欧州がエネルギーを渇望している以上、取引において供給側が相手の状況を利用しないわけがありません。つまり、今回のように価格が高騰しようとも買わないわけにはいないわけです。
欧州のエネルギーへの需要が緊迫すればするほど、供給側はますます有利な位置に立ち、エネルギー価格は上昇に向かいやすくなります。

欧州のエネルギー不足の懸念は、欧州以外の国へも波及しています。「原油と天然ガス」の長期契約へと走る国が増えているのです。ここ5年で原油とガスの長期契約は最高値に達しているとのことです。
すでに、3月4月あたりから原油高からの移行や欧州がロシア産を禁止し始めたことから、石炭の需要が予想されていました。6月時点での石炭の価格は2020年7月時点から4倍以上に高騰しています。

原油も天然ガスも、そして石炭も産出できる国や量には限りがあります。
とくに石炭は、カーボンニュートラルに向けて停止・禁止の動きが強まっていたため、もともと縮小傾向にありました。
ほとんど終局に近づいていた石炭事業を再燃させる企業も少ないと見え、それが悪循環の石炭高をもたらしているようです。
欧州の石炭利用再開から、今後の石炭への制限が日本や米国でも緩和される可能性があります。この機会に、石炭株をチェックしてみるのもよいでしょう。
国内の石炭株
- 三井松島(1518)石炭の専門商社、豪州、インドネシアで開発・輸入権限
- 住石HD(1514)石炭の輸入販売、先端素材、砕石販売も行う
- 日鉄工業(1515)鉄鋼向け石灰石、石炭、チリ鉱山など海外展開
- 日本コークス(3315)石炭、コークスが主力、化学装置、機械製造
米国の石炭株
- アーチ・リソーシズ(ARCH)石炭、鉱物、金属、治金製品の生産
- ピーボディ・エナジー(BTU)世界最大の石炭採掘会社、サーマル開発も行う
- ヴァーレ(VALE)ブラジル拠点の資源開発大手、鉄鉱石、石炭、貴金属など
- コンソール・エナジー(CEIX)アパラチア盆地における石炭の採掘、カナダ、欧州
米国株を取引きするなら、豊富な銘柄を取り揃えているマネックス証券がおすすめ。NISA口座での米国株取引は手数料無料です。
ちなみに、以下の記事では原油・天然ガス関連の銘柄一覧がご覧になれます。併せて参考にしてみて下さい。

ここ数年で進展していた石炭の生産制限・利用制限の流れからも、著しく石炭の供給量が増加するとは思いづらいのが現状。欧州はこれから出口が見えないエネルギー難を迎えつつあります。
思いがけない石炭の需要により、短期的には石炭価格のさらなる上昇が予想されています。
欧州のエネルギーへの緊迫した需要は、ますます中東・ロシアなどのエネルギー産出国の立場を有利にする結果となり・・・時に小休止を見せながらも、エネルギー高の盛り上がりがもう1波、2波やってきたとしても不思議ではありません。
したがって、結論としては石炭も含めたエネルギー価格の高騰は、やはりしばらくは続くと見れるのではないでしょうか。
