欧州のガスパイプラインが稼働停止。いよいよ今冬に向けての欧州のガス不足が深刻化してきました。
天然ガス関連のニュースでよく名前が出てくる欧州のガスパイプライン、ノルドストリーム。天然ガス投資において、ノルドストリームのことが気になっている投資家は多いでしょう。
ノルドストリームは、ドイツとロシアをつなぐ巨大なパイプラインで、欧州の天然ガス供給において重要な役割を果たすパイプラインです。
今回は、欧州とロシアをつなぐ天然ガスパイプライン、ノルドストリームについて詳しくかつわかりやすく解説していきます。天然ガスや欧州のエネルギー事情に関心がある方は、どうぞ最後までお付き合い下さい。

そもそも、ノルドストリームって一体何なの?

ノルドストリーム(Nord Stream)は、ドイツとロシアをつなぐ2つの巨大なガスパイプラインのことです。
このガスパイプラインは、ロシアの国営ガス会社ガスプロムが所有。欧州との共同プロジェクトとなり、ガスプロムの子会社であるノルドストリーム社が運営・管理しています。
ノルドストリーム1(Nord Stream1)は2011年からすでに運用開始、ノルドストリーム2(Nord Stream2)は2018年に建設が着工され、稼働予定となっていた2本目のパイプラインのことです。

ノルドストリーム社の欧州でのパイプライン・プロジェクトを総称して、ノルドストリーム・プロジェクトと呼ぶこともあります。

ノルドストリームは世界最大規模のガスパイプラインで、ロシアからダイレクトにバルト海の海底を通ってドイツにつながっています。
ノルドストリームから届くガスは、欧州全体のガス供給において非常に重要な役割を果たすとともに、ロシアと欧州のつながりを象徴する存在でもあったのです。
あまりにも巨大なプロジェクトとなるこのガスパイプラインは、米国を脅かす存在だったともいえ、欧州と米国、ロシアとの間でたびたび議論の的となっていました。

露からのガスパイプライン – ノルドストリーム2をめぐる激論
なぜ、ノルドストリームが天然ガスの価格に大きな影響を与えているのか?なぜ、欧州はガス不足に苦しんでいるのか?
天然ガスや欧州に関する様々な疑問が、このガスパイプラインを知ることで見えてくるかもしれません。
いったいどのように重要なパイプラインなのでしょうか?

ノルドストリーム1とノルドストリーム2と各プロジェクトの目的や背景・歴史をそれぞれ詳しくひも解いていきましょう。

ノルドストリーム1はどんな経緯で建設されたの?

ノルドストリーム1は、欧州で増大し始めていたガスの需要にこたえるために建設されたパイプラインです。
欧州とロシアの天然ガス貿易は、ロシアがソビエト連邦だった時の1970年にドイツと旧ロシア(ソビエト連邦)は初めてのメジャー・ガス契約を締結したことから始まりました。
まずは、1972年にチェコスロバキアにてパイプラインの開発がスタート。これを機に、欧州とロシアとくにドイツとロシアの信頼関係が築かれていきます。
時代はちょうど、石炭からガスへエネルギーが移行していた時です。ロシア産天然ガスの輸出は、欧州を中心に急拡大していったのでした。
ドイツとロシアの貿易関係は双方に大きなメリットがありました。ロシアは豊富な資源・マテリアルをドイツに輸出、一方でドイツはロシアに機械・電気機器・テクノロジー技術を輸出するバランスがとれた関係にあったのです。
1980年には4500kmに及ぶガスパイプライン・プロジェクトを西シベリア発で開始。しばらくは欧州とロシアの友好関係が続き、とくに2000年以降、プーチン大統領の時代になってからより強化されていきます。
ノルドストリーム1は、まさに当時の欧州とロシアの強固な結びつきを表すプロジェクトの1つ。ロシアのヴィヴォルグとドイツのルブミンをつなぐパイプラインです。

2002年6月、プーチン大統領とドイツのシュレーダー独元首相によって、増大する欧州のガス需要に対応すべく合意さたものです。2005年~2006年にドイツ化学会社BASFとガスプロムによって提携強化が図られ、2006年より正式にノルドストリーム1の建設が開始されました。
ドイツは原発の稼働停止と再エネへの移行を実現するためにも、ノルドストリーム1・プロジェクトを実現させる必要があったのです。
そして、約6年の膨大な建設工事を経て2011年にノルドストリーム1が完成。
単独で1,224kmと世界最長のガスパイプラインとして世界で注目されました。

ノルドストリーム1は、ドイツ東部のOPALパイプラインとドイツ北西部のNELパイプラインに接続されていて、中欧・西欧エリアにガスを分配する仕組みになっています。
トータルのガス供給量は年間550億㎥、欧州のガス供給量の概ね30%を占める量を1本のパイプラインでダイレクトに輸送することができるのです。2,600万世帯以上のエネルギーが賄えるうえ、50年間はオペレーション可能だといわれています。
また、ノルドストリーム1の事業総額74億ユーロ(約100億ドル/1兆2,000億円)、欧州がノルドストリームに将来をかけていたことがわかります。

ロシアへの経済制裁の結果、現在ノルドストリームは稼働停止。
稼働停止が続けば、欧州への相当なダメージにつながります。


じゃあ、次はノルドストリーム2について教えて。

ノルドストリーム2は、ノルドストリーム1と
ほぼ並行に敷かれた2本目のパイプラインです。
ノルドストリーム2は、2021年に工事が完了したばかりで、2022年から稼働を開始する予定でした。欧州は、2本目のパイプライン・ノルドストリーム2を敷くことによって、ロシアからのガスの供給量を2倍に増やす計画だったのです。
ノルドストリーム2は、ノルドストリーム1と同じルートでロシアとドイツ間に敷かれたガスパイプラインです。起点のみ、ロシアのウスチ・ルーガとなり終点は同じくドイツのルブミンとなります。

2011年から追加ラインの建設が検討され、2015年にガスプロムと欧州のエネルギー会社数社との間で契約が決まったプロジェクトです。ノルドストリーム1と合わせて1,100億㎥のガスがダイレクトに輸送可能となります。
プロジェクトに加わったのは、
などの欧州のガス・石油関連の企業です。
2018年に工事が開始されましたが、2019年にいったん延期となりました。というのも、米国から「待った」の制裁が入ったからです。
1970年に始まった欧州におけるロシアのガス事業開発は、2000年代に入ってからかなり広範囲にわたっていました。ロシアは欧州から得られる天然ガスの収益にて軍事力を強化。
ロシアの天然ガス輸出 上位国

欧州は約40%の天然ガスをロシアからの輸入で賄っていました。ドイツ56.2%、イタリア29.2%、オランダ13.2%というように、欧州のロシアへの依存度は非常に高かったのです。
ロシア軍事費の推移(1993年~2021年)

出典:Military Spending in Russia – Statista
ロシアにとっても、国の財政源・軍事力を確保するために欧州は重要な貿易相手国となっていました。
そもそも米国は、欧州をロシアの脅威から守るためにNATOを設立。NATOの加盟国である米国との関係を優先すべきであるのに、欧州はロシアに軍資金を払い続けていると非難したのです。
欧州は何とか米国を説得し、2020年から再びノルドストリーム2の工事を再開します。そして2021年にノルドストリーム2の建設工事は完了し、2022年から稼働する予定だったのですが、米国の介入があり再延期を強いられてしまうのでした。

米国はセキュリティ上の理由から、欧州がロシアとこれ以上強固なつながりを持つことに反対。エネルギー供給において欧州はロシアに依存しすぎると指摘しました。
かつて、欧州の一部は旧ロシア/ソビエト連邦の支配下におかれたこともあります。欧州内でもロシアへの依存度の高さを不安に思う声が強まり、稼働を延期する結果となったのです。

ノルドストリーム2の稼働が見送られていた矢先に、ロシア・ウクライナ問題が持ち上がります。ロシアがウクライナを侵略する可能性が高まった2022年2月22日、独ショルツ首相は、とうとう正式にノルドストリーム2のプロジェクトを当面停止する旨を公表したのでした。

現在も、ノルドストリーム2の先行きは全く見えない状況です。
欧州は脱ロシアを宣言。
ノルドストリーム2は全く無駄に終わってしまうかもしれません。
欧州・米国のロシアへの経済制裁は、トラブルを解決するどころか油に火をそそいだ結果となり、いまだにロシア・ウクライナ間では激しい闘争が繰り広げられています。
欧州はこれまでに、ほぼ全面的にロシアにガスの供給を依存していました。ロシアに対する過度な依存に対しては批判的な意見はあったものの、地理的要因・貿易関係から欧州にとって大きなメリットであったことは否めません。
安定した経済活動を送る上でロシアは重要な役割を果たしていたわけです。いざ米国や他国から天然ガスを調達するとはいっても、インフラ問題もあり容易にはいかないのが現状です。
果たして、本当にこのまま欧州とロシアは完全に離別に向かうことが欧州にとって最善の策なのかどうか疑問が残るところです。欧州がガスの調達に苦戦すればするほど、天然ガスは上昇に向かい、ますますインフレ・エネルギー高を押し上げることになります。
いったい、ノルドストリームは今後のどのような展開になるのか?
天然ガス投資を行ううえで、ノルドストリームは最も重要でかつ目が離せない最大のトピックだといえるでしょう。

