インフレーション、ウクライナとロシア、FRBの利上げ、20年ぶりの円安・・・・
市場では不安をあおるニュースがつきない中、上昇の道をひたすら歩み続けているのが原油です。原油価格の指標となるWTIは2023年3月に130ドルの高値をつけ、以来100ドル~115ドルあたりで推移していました。
そして、6月9日また新たに120ドル台に突入し、現時点では122.78ドルの高値をつけています。ここにきて、まだこれから上がるのか?今からでも原油投資は間に合うのか?と気になっている投資家は多いでしょう。
市場では原油価格が今後さらに上昇するとの見方が優勢です。今回は、大手ヘッジファンドをはじめとする世界有数のエキスパートの価格予想をご紹介していきます。どうぞ参考にしてみて下さい。
WTI(West Texas Intermediate/ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は2023年3月に130ドルの高値をつけ、Brent(北海ブレント)は139ドルの高値つけました。ともに、2008年以来の高値を記録しており、2023年は原油上昇の年として注目を集め続けています。

しばらくは110~115ドルあたりで推移していたものの、原油の供給懸念から6月9日に再び120ドル台を突破しました。120ドル台への突入は3月以来の高値となります。
2023年は、コロナから世界が回復し始めた年であると同時に、コロナへの救済措置から支払われた巨額の支援金への代償として、今まさにインフレーションが加速している段階。
加えて、ウクライナとロシア問題からも、原油価格は油を注いだ炎のごとく止まらぬ勢いで上昇への気配を見せ続けています。市場ではさらなる高騰を予測する声が飛び交っているようです。
原油が高騰した理由をいくつか挙げると・・・
- コロナ対策としてOPEC⁺の生産量が大幅に減少していた
- コロナ回復から原油へのニーズが向上した
- 中国のコロナ再発からOPEC⁺は増量を見送っていた
- ウクライナとロシア問題からロシアの供給量が著しく低下
- 欧州のロシア輸入禁止策から中東の原油価格の上昇が見込まれている
など、原油高騰の背景には、実に数々のドラマ・イベント、思惑が複雑に絡みあっています。たまたま、いくつもの要因が同時に重なって原油価格を押し上げる結果となったようです。

一時は、再エネによるニーズの低下が予想され、価格が落ち込んだ時期もありました。コロナ感染拡大が決定的となった時、需要低下が見込まれた原油価格はゼロ以下のマイナスの値をつけ前代未聞の暴落ぶりを見せたこともあるのです。
当時の価格低迷時から考えると、原油はまさに奇跡的な上昇を続けているといえるでしょう。

原油価格は需要と供給のバランスに左右される
原油価格は、数ある金融商品の中でもとくに景気に敏感な商品だと言われています。
需要 > 供給 ⇒ 原油は上昇
需要 < 供給 ⇒ 原油は下降
原油への需要が高い時に原油生産量が低下すると、原油価格はこれでもかと上昇に向かいます。
反対に、原油への需要が低い時に原油が増産されると、原油価格はまっしぐらに下降へと向かいます。
原油生産量が需要を補えないとの見方が強まった
各国のエネルギー高騰・インフレ加速から、要請にこたえてOPEC⁺は5月末に増産を発表したところでした。
インフレを懸念する米国

出典:Investing.com(左から:パウエル、バイデン、イエレン)
しかし、中国のロックダウン解禁に米欧のロシア産禁輸措置が激化、さらに米国があてにしていたイランの原油輸出に時間がかかりそうなことが6月9日の120ドル台突破を促したようです。
「現在の原油生産量では、世界の原油への需要にこたえることができない」
と深刻な事態を懸念するとともに、原油価格のさらなる高騰が予測されています。
では、今後も原油価格のさらなる高騰が見込めるとすれば、いったいいくらまで上昇が期待できるのでしょうか。また、下降に向かう可能性はどうなのでしょうか。
現在すでに高値圏にある原油。今から購入となれば、それなりにリスクも高くなります。上昇の見込みをできるだけ正確に読んでおきたいところです。
そこで、EIAやJPモルガンをはじめとする、信頼性が高い投資機関やリサーチ情報から厳選して原油価格予想をご紹介していきます。
EIA(米国エネルギー情報局)が6月7日に公開した原油価格予想では、2023年後半のBrent(北海ブレント)の平均価格を111ドル、2023年に向けて97ドルあたりに落ち着くとしています。

出典:https://www.eia.gov/outlooks/steo/index.php(エネルギー投資LAB 日本語編集)
予想ポイント
ロシアの供給量の低下が価格を押し下げる可能性があり、原油在庫量は減少傾向にあったものの、後半は在庫量の増加が見込まれているとのこと。とはいえ、夏以降のガソリンのニーズが高くなるため供給不足の可能性が指摘されています。
各国で進む利上げと、エネルギー高騰からくる企業のコスト削減が後半以降は目立ってくるとの見方です。従って、2023年は100ドル以下に下がると予想しています。
参照:EIA Short-Term Energy Outlook
EIAとは
EIA(Energy Information Administration)は、米国エネルギー省・エネルギー局の公的機関。米国・世界の原油、天然ガス、ガソリン、再エネなどを対象にデータリサーチを行っています。
参照:EIA US Energy Information Administration
JPモルガンのCEOジェイミー・ダイモンは、原油価格は状況次第では150ドルあるいは180ドルもかたくないと予想。欧州とロシアの決別からエネルギー・コモデティは戦後以来の上昇率を見せると読んでいます。
ロシア産原油の海上輸送シェア率(国別)

出典:https://asia.nikkei.com/Business/Energy
予想ポイント
実はJPモルガンは、2020年6月にコロナ感染が拡大する最中、「2025年に原油は190ドルに達する」とすでに予告していました。ちょうど原油がマイナス価格から回復し、40ドルの値をつけていた時のことです。
かなりクレイジーな予想だと評されていましたが、実際に2021年末には100ドル近くまで上昇。そして3月は130ドルに達しています。3月時点でのJPモルガンの原油価格予想は185~195ドルで、もし欧州がロシア産輸入禁止に動くならと付け足していました。ここにきて、JPモルガンの予想がより現実に近づいてきているのです。
参照:Bloomberg JPMorgan Says $185
JPモルガンとは
JPモルガン(JPMorgan Chase & Co.)は、NYに本社を持ち200年以上の歴史・実績を誇る世界最大手の金融グループです。資産運用を目的とした投資事業を主軸に個人・法人向けの銀行業など幅広く展開しています。
参照:JPモルガン(日本支店)
ゴールドマンサックスのコモディティアナリスト、ジェフ・カーリー(Jeff Currie)によると、まず2023年夏に原油価格は140ドルを超えるとのこと。2023年後半は平均的には135ドル、そして2023年は125ドルあたりで推移すると見ています。

出典:https://blog.nationwidefinancial.com/(エネルギー投資LAB 日本語編集)
予想ポイント
ロシア原油が世界市場から3分2減少するなら2023年の高騰は避けられないとのことです。一度は175ドル高騰を予告していました。6月時点で、欧州のロシア原油輸入禁止は決定しているものの、ロシア原油は今のところ健在。それでも、原油市場が正常な状態に戻るには最低135ドルまで上昇する必要があるとしています。
参照:Market Watch
ゴールドマンサックスとは
ゴールドマンサックスは1896年設立、NYを拠点とする世界大手系列の金融グループです。ヘッジファンド、不動産、M&A事業と日本でも多彩なサービスを展開しています。
参照:Goldman Sachs(日本語サイトあり)
今後も高値圏での推移が期待できるが、OPEC⁺や米国の供給増加が下押し要因になるとの見方。2023年度後半は、94ドル~98ドルで推移すると予想しています。

出典:https://www.mizuhobank.co.jp/
予想ポイント
2023年6月以降は先進国・アジア圏がコロナ回復をけん引きしていくだろうと予想。しかしながら、世界経済はロシア・ウクライナ問題からコロナ前水準には至らないとの見解から、高値圏で推移するとはいえ94ドル~97ドルと見ています。
みずほ銀行 産業調査部とは
みすほ銀行では、業界全体の将来性・見通しを多種多様な分野に渡ってリサーチ・レポートを作成しています。そのレポート作成部門が、みずほ銀行産業調査部です。
参照:みずほ産業調査
最後に付け加えておきたいのが、あの伝説の投資家
しているとのことです。
バフェットは長期投資家として有名で、数年~一生ものとして株式を購入することで知られています。もしかすると、原油の上昇は長びく可能性があるのかもしれません。
どんな予想か気になるところですが、もともとバフェット自身は、
「相場を予想することは不可能」「誰にも市場の先行きはわからない」「相場予想はしない」
と断言していることから真相はわかりかねるのが現状です。バフェットが買い増ししている原油株については、また別の記事にて詳しく解説していきます。

高騰が進んだとすれば「150ドル~185ドル」あたりの価格が期待できるかもしれません。
しかし、必ずしも価格高騰の予想ばかりではないことを忘れないようにしましょう。「高止まりは続くものの、80ドル~100ドルあたりで推移」との見方も少数派ながら存在しています。
原油はハイリスク商品の中でもとくにリスクが高く、-40ドルまで落ち込んだ経歴があることを念頭においておくことが大切です。
カーボンゼロの実現に向けて、今後は主要エネルギーは原油から再エネへと移行されていきます。長期的にはほぼ100%需要は低下していきます。
これから原油投資を検討されるのであれば、高値圏にある中でもできるだけ安値を狙った慎重なエントリーが欠かせません。さらに、短期での取引に徹することが最善のリスク対策となるでしょう。

