OPECプラスは10月5日のミーティングにて、デイリーベイシスで200万バレルの大幅減産に合意しました。米国の増産要請とは裏腹に、2020年以来ここ数か月の落ち込みから回復することを優先する方針です。
減産合意が発表される前日より、原油価格はすでに上昇に向かっていたこともあり、5日~6日のWTI原油先物は88.42ドルと3週間ぶりの高値を付けています。
今回の大幅減産は2020年5月以来の規模。バイデン大統領は失望、米ドルは143.40ドル台まで下落する場面もありました。
一方では、さらなるFRB利上げの可能性も持ち上がり、大幅減産でも果たして原油価格はこのまま上昇に向かうのかネガティブな見方もあるようです。
今回は、OPECプラスの大幅減産と原油価格が100ドルに向かう可能性についてまとめていきます。

2022年10月5日、オーストリアの首都ウイーン(Vienna)にてOPECミーティングが開催されました。ミーティングに参加したのはサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートなどのOPEC加盟国、ならびにロシア、メキシコなどのNon-OPECも加わったOPECプラスのメンバーです。
定期的に開催されるOPECミーティングにて原油の需給バランスが討議され、減産または増産調整が行われています。
5日のミーティングでは、以前からサウジアラビアによって意思表示されていたように、11月より原油供給を減産することで合意しました。
減産のペースはデイリーベイシス(日量)200万バレル!となり、予想をはるかに上回る大規模な減産となったことが金融引き締めとリセッションを懸念する市場に一石を投じたようです。
WTI原油先物チャート (1H足)

6月以降、下降基調にあった原油価格はまず9月28日の中国ロックダウン緩和のニュースとともに、需要回復が期待され上昇に向かい始めます。
翌日29日にはEIAの在庫統計がかなり乏しいことが判明、10月1日あたりからOPECプラスの減産への期待が高まり原油価格はまさに追い風を受けて上昇に勢いをつけていきます。
そして10月5日、待ちに待ったOPECミーティングの結果が想定以上の大幅減産となり、原油価格は利上げ懸念も吹き飛ばすかのごとく連日の上昇を維持しているところです。
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今回の減産幅は世界需要の2%に相当し、2020年コロナショック時以来の大規模な減産となります。
OPECプラスは減産に合意した理由をおもに2つ挙げています。
1つは、原油価格の安定性を確保するため。
米FRBをはじめ、英国、欧州と利上げによる金融引き締めが相次いでいます。リセッションへの懸念から、原油価格は80ドル以下に割れこみ、9月26日には76ドルの安値を付けるまでに至りました。ウクライナ侵攻以前のレベルまで価格が下がりすぎ・売られすぎてしまったことが減産に踏み切った要因となっています。
これ以上価格が下がりすぎてしまうと、下落に歯止めきかなくなる恐れがあり、かつ景気減速・需要低迷に備えて供給量を最小限に抑えておく必要があったのです。

また、もう1つの理由として今後ロシア産原油が大幅に縮小するあることから、原油のキャパシティを十分に残しておく必要があると指摘しています。
OPECプラスでは、欧米の経済制裁によって2023年にはロシア産原油の供給が著しく低下すると見ています。原油生産国ベスト3は米国・ロシア・サウジアラビアです。
サウジの見解によると、ロシア産原油の穴埋めは容易ではなく、万が一に備えておかなければならないとのこと。供給余地を残しておくことで対応可能だとしています。
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周知のごとく、バイデン大統領は7月に原油の増産要請をするためにサウジアラビアを訪問しています。(これがバイデン氏の初の中東訪問!)
普段のコミュニケーションに欠けるバイデン大統領の減産要請、むしろサウジを非難していたバイデン大統領の要請は当然ながらほとんど考慮されなかったのが現状。
サウジアラビア・中東は欧米とのつながりよりもロシアとのつながりを重視。
今回の大幅減産は、度重なる利上げへの対策に加えて、経済制裁からロシア産原油が減産に向かうことを考慮しての決断だったのでした。
OPECプラスから完全に無視されたともいえるバイデン大統領は、減産の報告を受けて「失望した」と表明。
11月から開始される原油の大幅減産は、すでにインフレに苦しむ欧米やその他の国々に打撃を与えることになりそうです。
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OPECプラスの減産発表後、米国ロサンジェルスのガソリン価格は6.78~7.18(1ガロン)ドルまで上昇。ロサンジェルスは他州よりも石油精製所の閉鎖が相次いでいたことから、一気にエネルギー高が進み、記録的な高値を更新しました。
ちなみに1ガロンは、日本でいうと約4リットル。日本のガソリン代平均は10月5日時点で1リットル164円です。ロサンジェルスのガソリン代を7ドルとして、1リットルあたりに換算すると、「1.75ドル × 144円 = 252円」となります。
もともとOPECプラスが減産に向かうことは予想されていたものの、想定以上の減産調整だったショックから、バイデン政権は早速さらなる利上げを示唆しました。バイデン政権は、サウジに裏切られた報復とでもいうかのように「利上げ」をアピールします。
ここで、「利上げ → リセッション → 需要低迷 → 原油価格が下落」のイメージがまた市場を左右し始めます。大幅減産の発表にて上昇の勢いをつけた原油市場は、過熱状態から様子見姿勢へと変換。
「ロシア vs 米国」というよりは、まさに「OPECプラス(中東)vs バイデン政権・FRB」の戦いです。
確かに、原油価格が120ドル台から80ドル台まで下落したことを思えば、利上げの威力は巨大です。
しかし、今回の減産幅はコロナショック時並みのレベル。OPECプラスの方でも、すでに利上げによる反撃は織り込み済みです。もちろん需要低下を見越したうえでの200万バレルの減産です。
9月23日のEIA原油在庫統計は、予想を大きく上回って-21万バレル、引き続き10月3日の在庫統計も予想に反して135万バレルのマイナスとなっています。

米国の原油在庫はあまりにも乏しい状況にあり、同時にウクライナに膨大な財源を費やしすぎです。終わらないウクライナ問題・インフレに批判的な声も少なくありません。
この時期におけるOPECプラスの大幅減産は、ある意味で欧米への挑戦です。従来のように、欧米の意のままにはならない、ということを中東・ロシアは伝えたかったのかもしれません。欧米のナンセンスな経済制裁やリーダーシップの欠如に対する批判もあったと見ることもできるでしょう。
さらに米国内の原油業界の協力を得られないことも原油上昇の要因となり得ます。
ウクライナ侵攻前の一方的で急速なバイデン政権の再エネ推進に、不満・幻滅を感じている原油生産者は少なくないようです。いざ、原油増産を要請されても、それに応える動きはほとんど見られていないのが現状。
利上げにぐらつきがちな原油市場も、今回ばかりはOPECプラスの思惑通りに上昇に向かう可能性の方が高いでしょう。
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では、実際に市場ではどのような見解があるのか、具体的な原油価格予想をいくつか見てみましょう。
モルガン・スタンレーによると、第4半期の原油価格は強気の展開。2023年の第1半期にはブレントが100ドルを超えると予想しています。(WTIはブレントより5~6ドル安い)

OPECプラスの減産体制は継続、欧州の新たな経済制裁(第8弾~)によるロシア産原油の減少から、原油はデイリーベイシスで90万バレル不足すると見ています。
参照:Morgan Stanley sees tighter oil market ahead – REUTERS
世界有数のオイルブローカーPVM Oil Associatesのシニアアナリストは、原油価格は9月のヘビーな落ち込みから上向きに流れを変えるタイミングにきていると分析レポートにて述べています。
強固なファンダメンタルに支えられて100ドルへの回復は難くないとの見解でいます。
参照:Oil price could soon return to $100 – CNBC
ゴールドマン・サックスは、2022年後半から2023年にかけての原油は「Very Bullish/かなり強気」だと予想しています。

200万バレルの大幅減産による影響は強烈で、10月6日時点の原油価格(87~88ドル)から25ドルは上がると見ています。2023年には早期で110ドルを超えるだろうとのことです。
参照:Goldman raises oil price forecasts – REUTERS
10月7日現在、WTI原油先物は91ドルを突破し92ドルに近づこうとしています。9月28日にいったん76.50ドルの安値を付けた原油は明らかに流れを変え始めています。約1週間で6ドルの値上がりです。
7日に発表の米雇用統計は26万人増。FRBのさらなる利上げへの観測からドルは145ドルを突破。
原油価格が上がれば上がるほど、FRB利上げの可能性も高まります。しかし、OPECプラスの「200万バレル減産」の切り札はOPECプラスの狙い通りのマジカルな効果を見せています。
ここにきて、ようやく「利上げ・ドル高 = 原油下落」の構図が崩れてきたようです。
次のOPECミーティングは12月4日。減産方針が継続されれば、それこそ110ドル、120ドルに向かって原油は再び高騰する可能性を秘めています。政策金利だけでは、エネルギー高が解決できない段階にきているのかもしれません。ぜひとも、100ドル突破を目指して上昇の波にうまく乗っていきたいところですね。

