カーボン・ニュートラル、脱炭素、地球温暖化という言葉を日常的に聞くようになりました。
車の燃料がガソリンから電気や水素に変わったり、屋根の太陽光発電から家の電力をまかなったりと、クリーンなエネルギーへの移行が進んでいます。
脱炭素とは、CO2を削減することだと何となく知っている方は多いですよね。
しかし、ここで脱炭素がなぜ地球温暖化の解決になるといわれているのか?なぜCO2がよくないのか?と疑問に思う方もいるでしょう。
今世界中ですすんでいる脱炭素の動きは、すべてはパリ協定から始まっています。今回は、そもそもパリ協定とは何なのか、脱炭素と地球温暖化との関係をわかりやすく解説していきます。ぜひ、この機会に読んでみてください。
パリ協定とは、2015年12月から協議が開始され、2016年11月に発効された条約のこと。
地球温暖化・気候問題を解決するための国際的な取り決めです。

The Paris Agreement – United Nations Climate Change

パリ協定について簡単に教えて。

では、パリ協定の概要を簡単にみていきましょう。
正式名称:The Paris Agreement(パリ協定)
発効:2016年11月
目的:気候変動・地球温暖化の解決(環境保護・地球の温度を2℃下げる)
加盟国:UNFCCC加盟国197か国
パリ協定とは、2015年12月にフランスのパリで開催された、地球温暖化を解決するための協議です。2050年のカーボンゼロを目標に、温度上昇の要因となっているCO2(GHG)の削減に取り組むことを約束する内容となっています。
2016年11月、UNFCCCに加盟する197か国の署名のもと締結・発効されました。

パリ協定の土台となっているのがUNFCCCと呼ばれる国際連合の条約です。
UNFCCCとは、
「United Nations Framework Convention on Climate Change 」
ユナイテッド・ネイション・フレームワーク・コンベンション・オン・クライメイト・チェンジ
を略したもので、日本語で「国連気候変動枠組条約」といいます。
わかりやすくいうと、国際連合の地球温暖化への取り組み、みたいな感じです。パリ協定の母体のような存在になります。

英語でも日本語でも長すぎるので、UNFCCCで覚えておくといいでしょう。
UNFCCC

UNFCCの枠組み

地球温暖化は、近年になってから問題視されているイメージがあるのですが、実は1992年の早くからすでに協議が行われています。地球温暖化から生じる災害や環境破壊は以前から危惧されていたのですね。
ちなみに、UNFCCCが開催する会議のことをCOPといいます。COPは会議の回数に合わせてCOP24、COP25と順番に呼んでいます。2022年にCOP26が英国で行われています。
パリ協定が締結される以前は、1997年日本の京都で開催された京都議定書が基盤となっていました。しかし、仕組み上に欠陥があったため、思うように進まず機能停止となってしまいました。

京都議定書の改訂版として、新たに「パリ協定」が取り決められたのです。

地球温暖化を解決するために、パリ協定では具体的に何を目指しているの?

では次に、パリ協定で具体的に決められた目標・取り決めを見てみましょう。
世界の気温は、産業革命(1750~1840年)あたりから急スピードで上昇しています。
地球温暖化のデータリサーチを行うIPCCによると、1850年~1900年にかけて約50年間の気温変化をベースとして見たときに、2006年~2015年の10年間にかけて0.8℃~1.3℃も上昇しているとのこと。
わずかな数値のように思えますが、1℃以下であっても温度の尺度でみると大きな違いがあるのです。
2017年には1.2度の上昇が見られ、おおむねで10年間で0.1℃~0.3℃のペースで気温が上昇しているそうです。
このペースで気温が上がり続けると、2100年には世界気温は産業革命以前から4.8℃~5.0℃以上に上昇するだろうといわれています。
この気温上昇を2℃以下に抑えていくことがパリ協定の最終的なゴールです。
上昇し続ける地球の気温

気温上昇の主な要因は、工業化による自然破壊とGHG(グリーン・ガス・エミッション)と呼ばれる有害ガスの排出によることが調査・研究から解明されています。
GHGには、二酸化炭素(CO₂)、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)などがあり、総称して「炭素」「CO2」などと呼ばれています。
世界のGHG排出量 年間の推移

1900年以降から世界のGHG排出量はしだいに増加。とくに1950年を過ぎたあたりから急速に増幅しています。GHG排出量の増加に合わせて、気温も同じように上昇に向かっているのです。
GHGの密度をRCPで表した場合に、2100年の気温変化は以下のようになると予想されています。

- RCP8.5 → 2.6~4.8℃
- RCP6.0 → 1.4~3.1℃
- RCP4.5 → 1.1~2.6℃
- RCP2.6 → 0.3~1.7℃

パリ協定で目指しているレベルがRCP2.6、少なくともRCP4.5の2.0℃以下で抑える必要があると見ています。
もし、まったく何も対策を実施しないとすれば、GHGはRCP8.5のレベルに達し温度は4℃~上昇に向かうだろうと予測されています。今、手を打たなければ人間のみならず地球環境全体が危機に陥る段階にきているのです。
気温上昇を安全レベルで抑えるためには、世界各国が協力・努力してRCP2.6~4.5のレベルにGHG排出量を削減しなければならないのです。

でも、気温が上がることが、なぜそんなに問題なのかな?

ここで、気温上昇が引き起こす地球環境や社会への影響を見ておきましょう。
気温が上昇することによって、地球環境や社会にさまざまな弊害が引き起こされます。
- 猛暑や洪水などの異常気象が生じる
- サンゴ礁や北極の海水など海洋システムへの被害
- 作物の生産高が地域的に減少
- マラリアなどの感染症の拡大、利用可能な水が減少
- 広範囲におよぶ生態系の破壊
- 氷が溶けて海面水位が上昇
- 世界の食料生産が低下する

世界自然保護基金WWFでは、北極で氷が解ける時期が早まっていることが報告されています。夏の海氷面積が、年々せまくなっているため、ホッキョクグマは生息地を失いつつあります。
このまま、氷が解け続けるとホッキョクグマは21世紀中ごろには3分の1に減少、十分な獲物がとれず餓死するホッキョクグマが増えているそうです。

近年の猛暑や相次ぐ水害も地球温暖化によるものだといわれています。実際に、普段のくらしの中でも気候の異常を感じる方は多いのではないでしょうか。
人間も含めた地球上のあらゆる生態系にダメージを与える地球温暖化は、ずばりGHG排出量を削減することが最も効果的だと科学的に実証されています。
GHGの発生元(業種・分野別)2020年

GHGの発生元は比率が大きい順に、
- 発電事業・発電インフラ
- 自動車
- その他工業・産業
- ビル・建設
- その他(家庭消費など)
となっています。
まずは従来の石炭・石油・ガスの火力発電を、CO2を排出しない再生可能エネルギーへと移行するのが先決。さらに、自動車の燃料をガソリンから電気・水素へと移行することで、大幅なGHG削減が実現できるとしています。
この考え方が、いわゆる今頻繁に見聞きする「脱炭素」「カーボンニュートラル」「カーボンゼロ」ですね。
「脱炭素」とは、「GHG = 炭素」を削減すること。「カーボンニュートラル」は「GHG = 炭素 = カーボン」をプラスマイナスでゼロにする、つまりCO2を再エネなどで相殺することです。そして「カーボンゼロ」とは、GHGを完全にゼロにすることを表しています。
「脱炭素」「カーボンニュートラル」「カーボンゼロ」は、ほとんど同じ意味です。同義語として使われています。

パリ協定では、最終的に2050年にはカーボンゼロが実現できるよう、各国に義務づけています。とくに排出量が多い国は5年おきに目標削減量を設定し、削減に向かう必要があるとしています。
具体的なパリ協定の対策とゴール
- 2050年にカーボンゼロが実現できることを最終的なゴールとする
- 世界共通の長期目標として気温上昇2℃を設定。1.5℃に抑える努力をする
- 主要GHG排出国は削減目標を5年ごとに提出・更新する
- すべての国が共通かつ柔軟な方法で報告・レビューを受ける
- イノーベーションの重要性の位置づけ
- 5年ごとに世界全体で実施状況を検討する
- 先進国による資金の提供、新興国も自主的に資金を提供
- 2国間クレジット制度(JCM)を含めた市場メカニズムを活用

もはや、「カーボンゼロ」を目指すことは国の義務・責任だと考えられているのです。
日本をはじめ、欧州・中国・米国など多くの国が、今2050年のゴールを目指して「カーボンゼロ」へと向かっています。


それでは、最後にパリ協定の締めとして、今世界中で開発・普及が進んでいる再生可能エネルギーについて解説していきます。

再エネを理解するにあたって、まずはCO2(GHG)を排出するエネルギーとはどんなエネルギーなのか、改めて見ておきましょう。
CO2を排出する代表的な燃料は、石油、石炭、ガスなどの化石燃料と呼ばれるエネルギーです。
化石燃料を燃焼することで大量のCO2が発生してしまうのです。国内の場合は、電力に使う化石燃料から約70%相当のCO2が生じています。
国内の燃料種別排出量

化石燃料を使った電力には、
- 石炭火力発電
- ガス火力発電
- 石油火力発電
などがあります。日本でもカーボンゼロに向けて、これらの火力発電所から再エネ由来へと移行が進んでいます。

ただし、天然ガス(LNG)に関しては、CO2の排出量が比較的に少ないためクリーンなエネルギーとしても活用できると注目されています。
天然ガスから水素エネルギーも創出できるため、再エネへの展開も期待されています。
電力の次に、CO2排出が多いのが自動車のガソリンです。ガソリンには、重油、軽油、ディーゼルなどいくつか種類があり、すべて石油を原料に精製されています。
再生可能エネルギーとは、
太陽光や風力など自然環境などを活用して、ほぼ無限に尽きることなく使えるエネルギーのことです。略して「再エネ」と呼ばれることが多いです。英語の「Renewable Energy」を日本語風に訳したもの。
CO2を排出しないことが大きな特徴で、再生エネルギー、クリーンエナジー、グリーンエナジー、新エネルギー、自然エネルギーなどいろいろな名称で呼ばれています。

また、再生可能エネルギーのもう1つの特徴は、身近な自然環境から入手できることです。何度も繰り返して使えることや、自然に優しいエネルギーであることが最大のメリットです。
以前から、再エネの開発は行われていたのですが、これまではコスト面やサイズで限界があったため、日常的な活用は難しかったのですね。
半導体(シリコン)などのテクノロジー技術が進化するとともに、より安価でコンパクトな再エネ導入が実現できるようになったのです。

再エネは大きく5種類に区分することができます。
- 太陽光(太陽光発電・太陽熱発電)
- 風力(風力発電)
- 水力(水力発電・潮流発電)
- 地熱(地熱発電)
- バイオマス(バイオガス、木材、建材、廃棄物)
太陽光発電
太陽の光、日光を集積して電気エネルギーに変換します。太陽の熱から電力をつくったりお湯を沸かしたりする方法もあります。基本的にパネルを屋根や土地に敷いて発電させます。
風力発電
風の力で風車(モーター)を回し電気をつくる方法です。数十メートルに及ぶ大きなものから、街頭や庭先につける小型のものもあります。
水力発電
水力発電は、川の流れ、滝やダムの流れで水車(モーター)を回して電気を作ります。雨の多い日本では最もポピュラーな再エネ発電方法です。
地熱発電
地中の熱、マグマ、火山の熱を活用して電気をつくります。地熱発電も、火山が多い日本で徐々に普及しつつあります。しかし、まだコスト面で若干の問題があるようです。
バイオマス
バイオマス発電は、木くずや建材、廃棄物を燃焼あるいは腐敗させてガスをつくり、電力へと変換する方法です。バイオマスには、廃油・化学物質も含まれるため再エネ由来と非最エネ由来と区別されています。
その他の再エネ
- 水素
- 天然ガス
- 大気熱
- 温度差
など、他にもあらゆるタイプの再エネの開発研究が進んでいます。
中でも、今後再エネとして脚光を浴びるかもしれないのが水素です。水素はH₂のことで、空気にも水にも大量に含まれています。現段階では、水素のみを抽出しエネルギーとするのに高度な技術・コストが必要で、今後のテクノロジー技術の展開が期待されています。
日本の法律では再エネの定義や種類が定められています。
法律上の再エネの定義:非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用できると認められるもの(法第2条第3項)
再エネの種類:(1)太陽光、(2)風力、(3)水力、(4)地熱、(5)太陽熱、(6)大気中の熱その他の自然界に存在する熱、(7)バイオマス(動植物に由来する有機物) の7種類(施行令第4条)。利用の形態は、電気、熱、燃料製品。
引用元:再生可能エネルギーについて – 関西電力

ちなみに、CO2を排出しない点は原子力もクリーンなエネルギーですが、原子力の場合は危険がともないますね。原則として再エネとは区別されています。
ここ数年で深刻化する気候変動・環境破壊に対応すべく、最近ではカーボンゼロへ取り組んでいることが企業の常識となりつつあります。いかに取り組んでいるか、再エネの実績が企業価値を左右し、信頼に結びつく時代になろうとしているのです。
世界を代表する大手企業のほとんどが、率先してCO2削減の実績を出しています。かつ自社だけでなく取引先など関わるすべての過程におけるカーボンゼロが求められています。
PC・スマホで有名なAppleは、すでに消費電力100%が再エネ(グリーン証書も含めて実質100%)です。加えて、サプライチェーン全体でも再エネ比率を高め、事業全体において2030年にカーボンゼロを実現すると宣言しています。
日本企業でも、Sony、Zホールディングス、コニカミノルタ、トヨタなど数多くの大手系がサプライチェーンを巻き込んだカーボンゼロに取り組んでいます。
しかし、まだまだパリ協定のゴールを達成する日は遠い未来にあるようです。国や企業の取り組みだけでなく、一般消費者・個人においてもカーボンゼロの認識が強まることで、ゴールが近くなるのかもしれませんね。

