ロシア・ウクライナ対立の背景にある天然ガスとは?天然ガスをめぐるロシアと米国の争奪戦

府に落ちないことも多い、ロシア・ウクライナ問題。単純に2国間の対立のみではないことは誰もが認めるところ。

そもそもなぜ、ロシアはウクライナを侵略したのか?なぜ、米国はここまでウクライナに執着するのか?なぜ、欧州はエネルギー難に陥ることになったのか?天然ガス投資では、ウクライナ情勢を理解しておくことが欠かせません。

ロシア・ウクライナ問題は、民主主義と共産主義との対立、人権問題・国境問題というよりは、まさに米国とロシアのガス主導権争い・エネルギー主導権争いからすべては始まった?といっても過言ではありません。

今回は、ロシア・ウクライナ対立の背景にある、ロシアと米国の天然ガス争奪戦について解説していきます。天然ガスやエネルギー投資を極めていきたい方は、どうぞ最後までお付き合い下さい。

なぜロシアはウクライナを侵略したのか?

2022年2月24日、ロシアがウクライナ侵略を開始したニュースに世界は衝撃を受けました。

プーチン大統領はウクライナに対して、「特別軍事作戦/Special military operation」を遂行することを宣言。

欧州・米国はウクライナを支援する意味で、即座にロシアへの経済制裁をスタートします。と同時に、ロシアが主な生産国となる原油・天然ガス、さらに鉱物資源などの価格はみるみるうちに高騰していきました。

これを機に、エネルギー商品は一気に注目を集め、エネルギー投資を始めた投資家が相次ぎました。また、対立が長引くにつれ、これから始めようかと検討している方も増えているようです。

投資の対象としては、ロシア・ウクライナが長引くことで天然ガスや原油の値上がりが期待できる一方では、そもそも、なぜロシアはウクライナを侵略した真相が気になっている方は多いでしょう。

これまでに、何度が中立・和解のチャンスがありつつも、停戦を勧めるよりは武器を提供し続ける米国や欧州の過剰な支援も疑問視され始めています。他国の闘争にここまで介入していることを不安視する声も聞かれていて、世界第3次大戦に発展するのではないかと危惧されるほどです。

ロシアがウクライナ侵略を決意した背景には、実に複雑な要因がいくつも重なっています。

投資家レヴィ
投資家レヴィ

ロシアのウクライナ侵攻にはどんな理由があるの?

エネルギーLAB
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まずは、一般的に認識されているウクライナ侵略の理由・背景をいくつか確認していきましょう。

ロシアが侵略を決意した理由

1.ウクライナの非軍事化(軍事力の緩和)

まずロシアが要求しているのは「ウクライナの非軍事化」です。

ロシア側の言い分では、ウクライナ・反ロシア派の攻撃の可能性がロシアにとって脅威となっているとのこと。ウクライナ国内でも、親ロシア派の地域や国民が迫害を受けていると主張しています。

今回のロシア・ウクライナ対立は2月24日に突如として浮上したかのイメージがありますが、ロシアとウクライナの対立は2000年あたりからたびたび繰り返されてきた争いなのです。

もともとウクライナは紀元前はギリシャ・ローマの一部として、中世以降は欧州・ロシアの支配下にあるキエフ公国として栄えた国です。18世紀以降はロシアの一部とされ、1991年のソビエト連邦解体によってウクライナは独立国なりました。

参照:ウクライナの歴史・概観 – ウクライナ日本大使館

出典:Russia’s “demilitarisation” plan Ukraine – New Eastern Europe

ウクライナはロシアに統一されていた時代が長かったのですね。以来、独立してからはロシアとのつながりを重視する「親ロシア派」とロシアを敵視する「反ロシア派」とが衝突するようになりました。

過激な反ロシア派によって親ロシア派への攻撃があったり、それに応酬して親ロシアからの反撃があったり、またはその逆だったりと衝突が繰り返されているのです。プーチン大統領は、これを解決するために「軍事力の縮小・緩和」を求めています。

参照:ロシアのウクライナ侵攻の背景を読み解く – 東京大学

参照:軍事化とは – コトバンク

※親ロシア派のユダヤ系が、ナチス系統の反ロシア派から迫害を受けることもあるため、非軍事化のことを非ナチ化と表現する場合もあります。

※プーチン大統領が侵略の正当性を高めるために非ナチ化を強調しているともされています。

2.ウクライナの中立化(NATO拡大を緩和)

また、ウクライナがNATOに参入し、NATO拡大によって欧州とロシアの中間にあるウクライナから攻撃を受けやすくなることがロシアにとって脅威となっています。

ロシアは、ウクライナがNATOに参入しないことと、NATO拡大を阻止することを要求しています

NATOとは

北大西洋条約機構/North Atlantic Treaty Organaization を略したものです。加盟国の1国が攻撃に合った場合に、NATO全体で一致団結して防衛・攻撃を行うことで国を守る役割を果たしています。

1949年に、当時世界的な脅威となっていたドイツ・ロシア(ソビエト連邦)に対する防衛機構として設立されました。米国・カナダと欧州の多くの国が加盟しています。1955年、フランスとの協定をきっかけにドイツはNATOに加盟、敵側から味方へと変換しました。

参照:北大西洋条約/NATO – 世界史の窓

NATOへの加盟は原則として、民主主義の方針をとっていることが条件となります。現在では、ロシアに対抗することがNATOの目的となっているわけではないのですが、民主主義 VS 非民主主義ということで、やはり対ロシア的な意味合いが残っているのですね。

世界全体でみると、NATO加盟国の比率はまだ3分の1程度です。しかし、ロシア1国と比較すれば、ロシアよりも確実に広範囲にわたります。

そして、欧州はNATO加盟国が最も集結している地域です。ここでウクライナがNATOに加盟するとすれば、ロシアの安全保障面でのリスクが高くなってしまうのです。極端な言い方をすれば、万が一の時に敵への窓口が広くなってしまうということです。


付け加えるなら、NATOはロシアの不安を十分に承知しています。もし、ウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアの危機感が高まるうえに、ダイレクトな欧米とロシアの戦争となり第3次世界大戦を引き起こしてしまいます。だからこそ、ウクライナがあれだけNATOへの加盟を求めていても、承認には至らないわけです。

ウクライナ以外にもNATO加盟国に隣接しているロシアは、これ以上のNATOの拡大はロシアへの挑発に等しいと警告しているのです。

参照:ウクライナがEUの加盟候補国に – 第一生命研究所

3.ドンバス地方・クリミア半島の独立承認(親ロシア地域の独立)

ウクライナは地域によって、ロシア人ロシア語が主流となるエリアがあります。今回の侵攻でロシアがとくに力を入れているドンバス地方とクリミア半島です。

ドンバス地方とクリミア半島は、ロシア人が多いため必然的に親ロシア派が集中するエリアでもあります。

ロシアはすでに2014年にクリミア半島を征服しており、ロシアの領土だと主張。加えて、同年に新ロシア派が実権を握るドネツク州とルガンスク州の一部のエリアを、ロシア支配下の共和国としています。

クリミア半島・ドネツクとルハンスクの親ロ地域を独立国として承認することを要求しているのです。

出典:ウクライナ危機 – 産経新聞

ウクライナ侵攻の状況を地図で見ると、ロシアはクリミア半島から上に向かってドネツク、ルガンスクのロシア国境側を優先的に攻めていることがわかります。

エネルギーLAB
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と、ここまでは、一般的に認識されているロシアのウクライナ侵略の理由です。

そして、もう1つ実は本当の侵略の理由として指摘されているのが「天然ガス」です。実は「天然ガス」をめぐるロシアと米国の主導権争いが、今回のロシアのウクライナ侵略を引き起こしたとの見方もできるのです。

ロシア・ウクライナの対立の根底に、ロシアと米国の「天然ガス争奪戦」が潜んでいるとみれば、米国や欧州のウクライナへの執着やプーチン大統領の動向もすべて説明がつきます。

天然ガスとはどんなエネルギー?天然ガス投資のメリット・デメリット

ロシアのエネルギー産業と米国

ロシアと米国の天然ガス争奪戦がウクライナ侵攻に関わっているといわれても、ここで・・・

投資家レヴィ
投資家レヴィ

えっ?天然ガス?ロシア?米国?どういこと?

と疑問に思う方は多いかもしれません。

エネルギーLAB
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ロシアと米国の天然ガス争奪戦とはどういうことなのか、それをこれから、一緒に1つずつ順序だてて解明していきましょう。

ロシアと米国がウクライナを介して天然ガス争奪戦へと展開したのは、ロシアのエネルギー産業があまりにも拡大しすぎたからです。

毎日の生活に欠かせない、原油、天然ガス、石炭などのエネルギー資源に恵まれているロシアは、近年の需要拡大にともないエネルギー産業にて財源を増やし続けています。

エネルギー産業で財源を増やしたロシアは、軍事力を急速に強化。以前にも増して米国を脅かす存在となっているのです。

まずは、予備知識としてロシアのエネルギー産業に触れていきましょう。

ロシアの原油産出量

出典:Russia’s Unsustainable Bussiness Model – HCSS

ロシアは、米国、サウジアラビアと並ぶ世界トップ3の原油産出国です。

かつては、原油産出においてサウジアラビアとロシアがトップの座を争っていましたが、2016年以降は米国のシェールガス開発によって米国がトップの座を守っています。次いでロシア・サウジアラビアが続きます。(年度によってランキングは多少前後)

世界の原油産出量ランキング(2021年)

出典:Distribution of crude oil production 2021 – Statista

一方、原油埋蔵量では米国は9位とランクが下がり、1位ベネズエラ、2位サウジアラビア、3位カナダ、そしてロシアは6位となり、登場する国が変わってきます。

世界の原油埋蔵量ランキング

出典:The Largest Oil Reserves – Statista

米国は原油産出量においてロシアやサウジアラビアからいつトップの座を抜かれてもおかしくない状況にあるのです。

ロシアの天然ガス産出量

では次に、ロシアの天然ガス産出の状況を見ていきます。

プーチン大統領の時代になってから、際立って生産量が伸びているのが天然ガスです。

天然ガス産出量 トップ産出国比較(1900年~2021年) 

出典:Gas Production – Our World in Data

1980年代まで天然ガスの産出でほぼ独走していた米国。2000年以降は、ロシアは米国に追いつきそうな勢いで、天然ガス産出量・輸出高を増やし続けています。

しかもロシアは埋蔵量に関しては、競合国を大きく引き離しダントツでトップに位置しています。他国とは比較にならないほどの天然ガスの埋蔵量を誇るのです。

世界の天然ガス埋蔵量(2020年)

出典:

これが、米国がロシアを恐れるに値する十分な理由となっているのです。

どういうことなのか、もっと詳しく見ていきましょう。

米国は、トランプ大統領時代の米中貿易戦争の要因ともなっているように、ここ数年間貿易赤字が拡大傾向にあります。

2022年2月には輸入急増で初の1兆ドル超えの貿易赤字を記録。

出典:米国貿易赤字 初の1兆ドル超え – 日経新

貿易収支を改善するには、単純に輸入額を減らし輸出額を増やす必要があります。輸出額を増やす方法として、100兆円を超える規模の米国のシェールガス・シェールオイルは重要な稼ぎ頭となっています。

ロシアに天然ガスのポジションを奪われるわけにはいかないというわけです。

出る杭は打て、というよりは出てくる前に打て、といったポリシー?でロシアが天然ガス輸出で米国に追いつく前に、何とか食い止めたい思惑が米国にはあるのです。

今回の「ウクライナ侵攻 + ロシアへの経済制裁」にて、米国は見事に原油・天然ガス輸出において恩恵を受けているようです。7月には貿易赤字は縮小に向かいました。

出典:米貿易赤字が8.9%減 – 日経新聞

もし、ロシアが今回のような経済制裁を受けなかったとすれば、おそらく天然ガスにおいて米国を追い越すのは時間の問題だったでしょう。

ロシアの石炭産出量・その他

さて、ロシアと米国のエネルギー競争は石炭においても例外ではありません。ロシアと米国は、まさに宿命のライバルかといえるほど、エネルギー資源ではロシアと競い合う関係にあります。

世界の石炭産出量ランキング

出典:The World’s Biggest Coal Exporter – Statista

石炭の産出量においてはインドネシアがトップ。そして3位の米国を大きく引き離してロシアが2位です。

石炭の埋蔵量では2021年米国がトップでロシアが2位です。

石炭は脱炭素の流れから停止に向かっていたのものが、ロシア産天然ガスへの不安から一時的に再稼働に向かっています。ただ、長期的には需要は低下していくと予想されます。

ロシアのエネルギー関連資源シェア率

出典:Russia’s energy and mineral production – THE ASIAN BANKER

他にも、再生可能エネルギーや電池に必要な、シリコン、サルファー、金、プラチナ、パラジウムなどロシアは世界で高いシェア率を有しています。このことも米国にとっては穏やかではないのですね。

エネルギー資源の宝庫となるロシアは、将来的に経済面で大きく飛躍する可能性を秘めています。世界最強の経済・軍事力を誇る米国にとって決して軽視できないことなのです。

米国とロシアはライバル関係にありますが、つねに敵対しているわけではありません。米国・ロシアのトップが誰なのか、その時々の政策や状況によって、協調し合うこともあれば、溝が深まることもあるのです。

エネルギーLAB
エネルギーLAB

ロシアが2014年にクリミア半島を征服して以来、また、もともと反ロシア寄りだったバイデン大統領が就任してから、米国とロシアの関係は悪化してしまったようです。

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ロシアの天然ガスパイプライン

投資家レヴィ
投資家レヴィ

米国とロシアがもともとエネルギーにおいて、ライバル関係にあるのはわかったけど、

ウクライナ侵攻とどう関係してくるの?

エネルギーLAB
エネルギーLAB

さて、いよいよここからが本題です。ウクライナ侵攻の背景にあるのが

ロシアの天然ガスパイプラインです。

ロシアのエネルギー産業の中でも、米国はとくにロシアと欧州の天然ガスパイプラインの結びつきを危険信号として見ていました。

欧州とロシアの天然ガスのつながりは米国にとって脅威となりつつあったのです。

そして、このロシアのガスパイプラインにおいて、ウクライナは地理的に非常に重要な役割を果たしているのです。

ロシアと欧州のガスパイプライン

ロシアから欧州へ輸出される天然ガスは、ロシアの総輸出量の50%以上を占めています。

2018年の欧州向け輸出量は303万トンだったのに対して、2019年には1,723万トン、2020年には1,613万トン5倍以上に急増。欧州に寒波が襲ったことと、脱炭素対策として原油・石炭の火力発電を天然ガスへと移行を進めていることが大きな要因となったようでした。

参照:ロシア情勢 – JOGMEC

EUとロシアの関係もトップが誰なのかによって、長い歴史の中で敵対したり協調したりを繰り返しています。ウクライナ問題以前の数年は比較的に良好な関係にあり、とくにドイツとロシアとの間でかなり緊密な貿易関係が続いていたのです。

出典:EU announce plan to slash Russian gas – ALJAZEERA

欧州とロシアの天然ガスの貿易が本格的に始まったのが1980年。以来、ロシア国営ガス会社・ガスプロムによって数千キロにおよぶ膨大で緻密なガスパイプラインが欧州で開発されていきます。

欧州の基本方針としてウクライナ侵攻後も、しばらくはロシアの天然ガスは経済制裁の対象外とすれていたほど、両者の結びつきは強かったのですね。

欧州とロシアをつなぐガスパイプライン、ノルドストリームとは

米国と欧州の関係はというと、どちらかといえば縮小ぎみにありました。米国は、エネルギーのみならず安全保障の面で欧州とロシアが結束しすぎるのはよくないと判断したのです。

そして、できる限り阻止する方向で動いていきます。2022年から稼働が予定されていたロシア・ドイツ間を結ぶ巨大なガスパイプライン「ノルドストリーム2」にも、米国は数年にわたって異議・反対声明を発表し続けています。

すでに稼働中の「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」とを合わせれば、欧州のガス需要の大半が賄えると想定されていました。

米国は反対声明を数回にわたって公表した後で、最終的にはガス価格の高騰やロシアとの対決を避けるため2021年6月に合意することになりました。

しかし、米国の反対声明はロシア側に「もしかしたら、ノルドストリーム2」は稼働できないかもしれないとの不安を与えたのでした。

ロシアは、ノルドストリーム2への米国介入から、今後の天然ガス事業の展開に危機感を感じ始めます。そして、稼働できない場合の対策に着手することになるのです。

ここから、ウクライナ侵攻へと展開していくのです。

ロシアのガスパイプラインとウクライナの関係

ロシア・欧州間をつなぐガスパイプラインは大きく、ウクライナ経由とバルト海峡の海底パイプラインを使ったノルドストリーム経由と2つの輸送方式に分けることができます。

  • ノルドストリーム経由 
  • ウクライナ経由

ロシア・欧州間のガスパイプライン

出典:Nord Stream pipeline from Russia ‐ BBC(エネルギー投資LAB編集)

ノルドストリーム2がもし稼働できないとすれば、ウクライナ経由でのガスパイプラインを使用する必要があるのですが、ところが、ここで問題が出てきます。

ウクライナ経由のガスパイプラインにおいて、ロシア・ウクライナでこれまでに何度も深刻な争いを起こしてきているのです。2022年の今回の争いが初めてではないのですね。

そもそも、ロシアがノルドストリーム1を海底に敷いたのは、ウクライナを介さずにダイレクトに欧州にガスを輸送したかったことがおもな理由になっていました。

また、2014年のクリミア半島の侵略も、ガスパイプラインと深くかかわっているのです。

ロシアとウクライナの天然ガス紛争

投資家レヴィ
投資家レヴィ

これまでに、パイプラインに関して、

どんなことでウクライナとトラブルがあったの?

エネルギーLAB
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では、過去にさかのぼって、

ロシアとウクライナのガスパイプラインをめぐる対立を見ていきましょう。

2011年にノルドストリーム1が稼働するまでは、約80%の欧州向け天然ガスがウクライナ経由で輸送されていました。中継地点となるウクライナは毎年数十億ユーロに値する通過料を得ていました。

ウクライナはこの通過料から、自国でのロシアガス輸入分を支払っていたのですが、ウクライナはロシアに無断でパイプラインからガスを抜き取るなどたびたびトラブルを起こしていたのです。

そして、ロシアとウクライナがガスパイプラインで最初に大きな紛争を起こしたのは2005年のことです。

2005年~2006年 ロシア・ウクライナ天然ガス紛争

2005年の紛争は、2004年のオレンジ革命が引き金となっています。

オレンジ革命とは

反ロシア・欧米寄りの立場を明確にしたウクライナの新政権が発足したことをいいます。

これを受けてロシアは、ウクライナ政府にウクライナが輸入していたロシアガスの価格を50ドル(1,000㎥あたり)から160ドルまで引き上げたため、紛争を引き起こしました。

ロシアはウクライナへのガス供給を停止し、最高時には230ドルまでガスの価格が上昇。2年の紛争ののち、ロシアとウクライナの間に中間業者を立て95ドルの契約にて、ひとまず落ち着きました。

オレンジ革命以来、ウクライナにて徐々に反ロシア的な思想が強化されていくのです。

2008年~2009年 ロシア・ウクライナ天然ガス紛争

2008年~2009年にかけての紛争は、ウクライナが支払うガス価格と通過料の交渉、さらにウクライナによるガスの抜き取りが判明するなど、混沌とした紛争が約2年間続きました。

ロシアはウクライナへのガス供給を停止、EU監視団によるモニター制をパイプラインに導入、ウクライナは価格供給を妥協するなどで解決に至ったのです。

これらの紛争があったため、ノルドストリーム2の追加建設が本格化することになります。2014年のクリミア侵略もウクライナを介さないパイプラインルートを確保する狙いがあったのでした。

参照:繰り返されたロシア・ウクライナ天然ガス紛争 – JOGMEC

「ウクライナとのトラブルが多発」→「ノルドストリームでウクライナを迂回」→「米国の介入」→「ノルドストリームが本稼働できない」→「天然ガスの中継地点が必要」

エネルギーLAB
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以上の流れがあって、ロシアはウクライナを介さない天然ガスの中継地点を確保する必要が出てきたのです。このことがウクライナ侵攻の第一の理由だといえるでしょう。

ロシア天然ガスの将来性と米国の懸念

また、米国にとって、対欧州だけでなくロシアガスの多方面にわたる今後の展開がさらなる脅威となりつつあります。

ロシアの天然ガスパイプラインは、中国、インド、トルコ、シリア、アルジェリア、モロッコとかなり広大な範囲にわたって拡大し始めているのです。ちなみに日本とロシア間にもパイプラインがあります。

ロシアのLNGサハリンプロジェクトと日本の関係とは

ロシアのガスパイプラインネットワーク

出典:Europe’s Gas Pipeline Network – Economist
  • Nord Stream(ロシア~ドイツ)
  • Ukraine gas transit(ロシア~欧州、ロシア~中東、ロシア~トルコ)
  • Yamal(ロシア~欧州)
  • Turkstream(ロシア~トルコ)
  • Blue Stream(ロシア~中東)

参照:欧州フロンティア – Jetro

参照:ノルドストリーム2の動向について – JOGMEC

アジア圏を除くと、ウクライナがロシアのガスパイプラインで極めて重要な場所に位置していることがわかります。

パイプラインにてダイレクトにガスが輸送できることは、短時間で大量の天然ガスが確保できたり、輸送コストが削減できたりと輸出側・輸入側と双方にメリットがあります。

欧州や中東に近いロシアの地理的優位性から、アメリカ大陸をのぞくほとんどの地域へとロシアの天然ガスが展開しやすい環境にあるのです。ただし、ウクライナにてパイプライン拠点が安全に確保できればの話です。

ロシアは全力をかけて、ウクライナにロシアが支配権をもつエリアを確保しようと動きます。

そこで米国はまず、ガスパイプラインで重要な位置にあるウクライナの支援にまわります。米国がウクライナのガスパイプラインに関与できれば、ロシアのガスネットワークを阻止することができるからです。

米国は全力をかけて、ウクライナでロシアが支配権を持つことを阻止しようと動きます。

もともと、反ロシアの風潮が強まりつつあった、米国の関与をウクライナは歓迎。ウクライナと米国の強い結びつきが始まります。

米国はウクライナを強く支援。ロシアとの対立になれば武器を提供。

ここに、現在展開しているようなウクライナをプロキシーとした代理戦争が成り立つわけです。

もし、ロシアがウクライナの中継地点を失うことになれば、欧州へのガス輸送はもとより中東やアフリカへの経路も断たれてしまいます。すでに建設済み・稼働中のパイプラインも今後トラブルが発生する可能性が出てきます。

そうなれば、天然ガス輸出に大きく依存するロシア経済にとって致命的な痛手です。

エネルギーLAB
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つまり、ウクライナのパイプラインの安全性が確保できるかどうかが、ロシアの将来に大きくかかわってきます。ロシアは何とか、中継地点を死守・確保する必要に迫られました。

ウクライナの天然ガス開発と米国

そして、ガスパイプラインの他にも、ロシアと米国が対立する理由があります。

それは、ウクライナにおける天然ガス開発です。実は、知って驚く事実なのですが、ウクライナの天然ガス開発にバイデン大統領は2015年あたりから深くかかわっているのです。

投資家レヴィ
投資家レヴィ

バイデン大統領がウクライナのガス開発に関わっているって、

どういうことなの?

エネルギーLAB
エネルギーLAB

それは、バイデン大統領の次男がかつて、

ウクライナ・ガス会社の役員に就任していたこと関係しています。

バイデン大統領の次男であるハンター・バイデンは、2014年~2019年にウクライナのガス会社「ブリスマ社」の役員に就任した経歴があります。同時期に、ジョン・ケリー国務長官の孫も就任しています。

ウクライナとハンター・バイデンのつながり

ブリスマ社は、元親ロシア派のオリガルヒが設立した会社で、ウクライナの天然ガス開発を行っていました。

2010年~2013年にかけて、ウクライナのドンバス地域や黒海周辺にて大量のシェールガスが発見されており、EIA(米国エネルギー情報局の調査にによると、1.2兆㎥相当の埋蔵量が期待できると報告されているのです。

ウクライナの天然ガス開発にシェールガスの技術を持つ英国や米国企業が任されることになりました。

当初は、ダッチ・シェルやシェブロンがウクライナ政府と契約を交わし開発をすすめていました。しかし、その後2015年以降に原油・ガスの価格が暴落し採算が合わなくなったことで撤退。

ハンター・バイデンの就任は、米政権の近親者をウクライナ・シェールガス開発に参入させておきたいとの思惑があったようです。2014年のロシアのクリミア征服もシェールガス開発もかねていたとしても不思議ではありません。

ここで、またウクライナのシェールガスにおいて米国とロシアが対立することになります。

ロシア・ガスパイプラインとバイデン大統領

ハンター・バイデンがブリスマ社に就任した2015年は、マイダン革命があった年です。マイダン革命とは、親ロシア派だったヤヌコーヴィチ大統領を失脚させ、反ロシア・親欧米派へと政権へと変わった革命のことをいいます。

当時、副大統領だったバイデン氏は、マイダン革命の支援や反ロ・ウクライナ政府への支援を任されていました。バイデン大統領が、2015年のマイダン革命の首謀者だったとの説もあります。

ウクライナのシェールガス開発にて障壁となっているのが、黒海・ドンバス周辺に集中しているロシア勢力です。米国は、ウクライナ・シェールガスで実権を握るために、ロシアを追い出しにかかっているともいわれています。

ロシアも、それに対抗するかのように、黒海・ドンバス周辺に力を入れていきます。

バイデン氏の立候補とともに、2019年にハンター・バイデンはブリスマ社退任していますが、おそらく、現在でもバイデン氏とブリスマ社と深くつながっていると見れるでしょう。

参照:バイデンの動かぬ証拠 – Yahooニュース

参照:ウクライナ紛争の背景にあるエネルギー事情 -IEEI

EUは米国産LNGの供給拡大に合意

ウクライナ侵攻がスタートしてから約1か月後の3月26日、EUはロシアガスの代替え策として米国とLNG供給拡大に合意します。欧州のロシアとの決別にて、最も利を得るのは米国です。

米国はまさにこの時を待っていたのです。もしかしたら、欧州は、ロシア・ウクライナ対立の一番の被害者かもしれません。

出典:EU Imports More U.S. LNG – OIL PRICE.com

6月1日、米国の欧州向け天然ガスの輸出量はロシアの欧州向け輸出量を初めて超えました。

米国の脅し・戦略を鵜呑みにして、とうとう欧州はこれまで築き上げてきたロシアとのエネルギー網をすべて無駄にするつもりです。(ウクライナの天然ガス開発にかけているのかもしれませんが・・・)

ノルドストリームだけでも、2兆円以上を費やしたうえ、今後LNGで輸送するとなれば新たなインフラへの費用もかかります。米国や他国への依存に変更したからといって、依存は依存です。エネルギー事情はさほど変わるものではありません。

欧州の成長は、安定したロシアのガス供給を基盤に実現できていたのです。エネルギー自立を図るのであれば、なおさら、ロシアのエネルギーを継続したほうが近道だったといえます。

投資家レヴィ
投資家レヴィ

で、欧州のガス事情は大丈夫そうなの?

エネルギーLAB
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加えて、現在のところ、ロシアはノルドストリームを稼働停止中です。欧州は自らがとった選択に、欧州自身はしばらく苦しむことになりそうです。

プーチンが侵略を決意したロシアの背景

さて、今回解明してきた、ロシアと米国の天然ガス争奪戦もいよいよ終盤に入ります。

最後に、プーチン大統領がウクライナ侵攻を決意した、ロシアの背景を見ておきたいと思います。 

脱炭素による原油の需要低下

プーチンが世界から非難を受けるのを承知のうえで侵略を決意したのは、将来的な原油・石炭の需要低下がほぼ確実に予想されているからだといえます。

ロシアの国土の大半は、想像を絶するほどの寒冷地。

世界で最も気温が低い地域に属するシベリアの気温は、-60度!まで低くなります。

歴史上、最も恐れられていた人物、ナポレオンやヒトラーが逃げ帰っていったほど、ロシアの冬は寒さが厳しいのです。ロシアが指一本動かさずとも、ロシアの厳しい寒さがナポレオンやヒトラーを追い返した、という逸話があります。

それほどに極寒のロシアでは、人が暮らせる地域が制限され、商業や産業が発展しづらいのが弱点です。脱炭素に備えるための、大規模な太陽光発電や風力発電の開発にも限界があります。

そのかわりに、ロシアには豊富なエネルギー資源があり、ロシア経済はこれまで原油・天然ガス・石炭の輸出に大きく支えられてきました。

いざ、原油・石炭の需要が低下した時に、唯一、原油・石炭の穴埋めをしてくれるのが、今後も需要拡大が期待できる天然ガスなのです。

もちろん、水素やアンモニア、パラジウムやプラチナなど、脱炭素時代にて対応可能な資源も豊富に有しています。しかし、まだそれらの資源は、原油や石炭をすぐに穴埋めできるほど需要が高いわけではありません。

天然ガスでキーポイントとなるウクライナのルートが確保できるかどうかに、国の将来がかかっているのです。他に収益減がある、米国や欧州とは状況が異なります。

天然ガスルートを確保するために、ウクライナ侵略を決意した理由がここにあるのです。

ロシアの新しいつながり

ほとんどのメディアにて、ロシアが一方的にウクライナを侵略、かつてのソビエト連邦を再現しているかのようなイメージで報道されます。(もちろん、欧米のメディア戦略です。)

しかし、ロシア・ウクライナ問題は、今回のように天然ガスに焦点をあてて見ていくと、必ずしも一方的にロシアに非があるわけではないことがわかります。

ウクライナ以外でも、他国から攻撃を受けている国は他にもありますよね。米国自身がベトナムやシリアに攻撃をかけたこともあります。欧米がウクライナをここまで過剰に庇護するのは天然ガスがかかわっているからなのです。

もし、ウクライナが天然ガスで重要な立地になかったとすれば、ここまで欧米が武器や支援金を送り続けることはなかったでしょう。そもそもロシア・ウクライナの衝突も起きなかったでしょう。

果たして、ロシア国民を経済制裁にさらしエネルギーを武器とするプーチン、国民の死をリスクに中立をこばむゼレンスキー、またプーチンを追い詰めたバイデン大統領と、誰に非があるのか簡単に答えることはできません。

出典:Where will Moscow sell its oil and gas? – DW

ロシアはすべての悪の根源と非難されながらも、欧米・NATOとは全く別のつながりにて、中国、インド、サウジ、トルコなどと新しい貿易関係を開拓中。いずれも、今後は飛躍的な成長が期待されている新興国です。

エネルギーLAB
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ロシアの天然ガス・エネルギー事情をきっかけに、これから、新しい時代が訪れようとしているのです。

まとめ

エネルギーがなければ、私たちの日常は何も始まりません。食料品や日用品が入手困難となるどころか、PCやスマホの電源を入れることさえ不可能です。エネルギーは世界を動かす最も重要な資源だといえます。

エネルギーを制するものは世界を制する

といわれるように、「エネルギーの主導権がかかっている = 国際社会での主導権がかかっている」となれば、

ロシアも米国も欧州もウクライナから引き下がるわけにはいかないのです。

市場では2023年まではロシア・ウクライナの対立は続くとの見方が優勢。数年間は続くとの声もあるほどで、ロシア・ウクライナ対立はまだ始まったばかりなのかもしれません。今後さらに、ロシアと米国のガス主導権争いも激しくなっていく可能性があります。

冬を迎えるにつれ欧州のガス不足はさらに困難な道へ突入することが予想されます。天然ガス価格も、ロシア・ウクライナの情勢にこれまで以上に大きく上下しながらも、さらなる値上がりを見せていくことでしょう。

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