ロシア・ウクライナ問題が悪化するに従って、近隣国である日本とロシアの関係も危うい状況に陥ってきています。
今回、プーチン大統領が発した大統領令によって、天然ガスの大規模なプロジェクトである「サハリン2」から日本企業が撤退を余儀なくされる可能性が出てきています。加えて、ロシアからの今後のLNG輸入に不透明さが高まり、今冬の電力不足をさらに後押ししかねないことが懸念されています。
そもそもサハリン・プロジェクトとは?現在日本が置かれている状況などについて、今回は解明していきたいと思います。
6月30日に、プーチン大統領は日本企業が参入しているLNGのサハリンプロジェクトが移管・再編されることを大統領令として公表しました。プロジェクトの移管・再編は、おもに欧米のロシア経済制裁への回避策であるとともに、応酬の要素が大きいと見られています。
LNGサハリンプロジェクト

サハリンプロジェクトには、大手日本企業の三井物産・三菱商事などが幾多と参入しています。これまでは、ひとまず現状維持で保持されていたプロジェクトです。
しかし、今回の大統領令によって、今後のロシア政府と日本政府・日本企業との関係がかなり危うくなる可能性が指摘されています。

そもそも、サハリン・プロジェクトって何なの?日本とどういう関係があるの?

サハリン・プロジェクトは、いわゆる北方領土である樺太(カラフト)島で進められているLNG(天然ガス)プロジェクトのことです。
まずは樺太(カラフト)島と日本の関係を、この機会に見ておきましょう。
サハリンとは、
島の名前のことで北方領土の1つである樺太(カラフト)のことです。樺太をロシア語で「Sakhalin/サハリン」といいます。

「北方領土問題」という言葉を聞いたことがある方は多いですよね。北方領土は北海道の上、ロシアにも近い場所に位置している島々のことで、昔からロシアと日本で国境の論争となってきた島々でもあります。
第2次世界大戦以前は、北方領土のほとんどが日本の領土となっていました。戦後、条約によって日本は権利を放棄、現在は法的にロシアの領土となっています。
日本の領土だったこともある北方領土では、日本人に馴染みが深いこともあり、ロシアと共同で進められているプロジェクトや開発は結構多いのです。

近隣国でもあるロシアは、日本にとっては貿易や企業の開発などで、重要な国でもあるのですね。
日本企業が参入しているロシアのLNGサハリンプロジェクトとは、樺太(サハリン)で行われている原油・天然ガス開発のことです。
もともとのサハリンプロジェクトは、1965年にまでさかのぼります。ロシアがソビエト連邦国だった時代です。エネルギー資源に乏しい日本は、地理的に有利で資源に恵まれた近隣ロシアと共同で石油・天然ガス開発に着手しました。
プロジェクトとして設立されたのは1996年のこと。米国のエネルギー大手エクソン・モービルが主体となってプロジェクトを先導し始めたことから本格化することになったのです。

2014年には、ロシアと日本間で「サハリンから関東までのガスパイプライン」が建設されました。2020年以降はガスパイプラインでのガス供給が開始されています。
サハリンプロジェクトには、「サハリン1」と「サハリン2」の2つのプロジェクトがあります。日本との関わりも含めて、どのようなプロジェクトなのか詳しく見ていきます。


サハリン1は、以前から着々と開発が進んでいた原油・天然ガスプロジェクトを法的に設立したものです。ロシアの初めての大規模なオフショア開発となります。

1995年:ロシア政府と各企業とでサハリン1プロジェクトを締結
→サハリン石油ガス開発(株式会社)を設立
- Exxon Neftegas(Exxon Mobilの子会社)30% → 撤退
- SODECO(サハリン石油ガス開発株式会社/日本)30%
- インド石油天然ガス公社 20%
- ロスネチフ(ロシア国営石油会社)20%

出資の30%を占める「SEDOCE/サハリン石油ガス開発会社」は日本政府と日本企業の出資にて設立されました。経済産業省の出資50%、その他に、伊藤忠グループ、石油資源開発、丸紅、国際石油開発帝石が出資を行っています。

サハリン1に関しては、ロシアと日本の関係はどうなっているの?

サハリン1では米国のExxon Mobilは撤退済み、日本の参入状況は今のところ現状維持で継続されています。
今回、大統領令の発足によって先行きが懸念されているのが「サハリン2」です。
「サハリン1」に先駆けて、開発が進んでいたのが「サハリン2」で、すでに1991年より米国Marathon Oil(マラソンオイル)、英DutchShell(ダッチシェル)、三菱商事がロシア政府と共同で着手していました。

1994年:サハリン・エナジープロジェクト「サハリン2」の協定を締結
→ 運営主体として株式会社「サハリン・エナジー・インベストメント」を設立
2008~2009年:本格的に稼働スタート
サハリン2のLNGが初めて東京湾に輸送されたのが2009年のことでした。

- ロシア国営ガスプロム 50%
- 英Dutch・Shell 27.5% → 撤退
- 三井物産 12.5%
- 三菱商事 10.0%
となり、日本企業では三井物産と三菱商事がダイレクトにサハリン2に参入しています。とくに、三菱商事はサハリン1の出資者でもあり、1991年以来ロシアとのかかわりがあるため、今後の展開が注視されているようです。
ロシア・ウクライナ問題が発生する以前は、これらサハリン・プロジェクトの展望が大きく期待されていたわけなのですが、ここにきて状況が一転してしまったわけなのです。

今回問題になっているのが、サハリン2なんだね。何があったの?

次に、では「サハリン2」に何が起きたのかを見ていきましょう。
2月24日にロシア・ウクライナ戦争が勃発してからというもの、世界ではロシアを非難する声が高まり、欧州・米国を中心にロシアへの経済制裁が実施されてきました。
Exxon Mobilと英Dutch Shellはそれぞれ米国・英国政府とのかかわりからも、早々と撤退に踏み切っています。
この戦争の背景には、米国や欧州・NATOの存在があったり、ロシア側にも言い分があったりと、複雑な国の事情としがらみ、政治・思惑があるようです。
どちらも後にはひけない段階にあり、今となっては終わりが見えない戦闘が続いているわけですが・・・
日本政府はロシア産原油の禁止には同意しても、LNGの輸入は継続する方針だと表明してきました。従って、サハリンプロジェクトへの参入も維持していく方針でした。
しかし・・・・ロシアは激化する経済制裁への応酬として、サハリン2の主体を移管・変更することを発表。日本政府に某メディアいわくカウンターパンチを浴びせることになったのです。
プーチン大統領が命じた、サハリン2の大統領令とは、
運営主体である「サハリン・エナジー」のすべての権利と義務をロシアの新会社に移行させる、新会社は「サハリン2」の無償使用権が譲渡されること、株主はロシア政府に対して新会社への資本割合を通知しなければならない。
サハリン2運営主体の再編を命じる大統領令 – JETRO

6月30日、プーチン大統領は、撤退した外国企業の埋め合わせと激化する経済制裁への対策として、サハリン2の運営会社を新会社へと移行する旨を、決定事項として発令しました。
新会社への移行にあたって、日本企業との今後の資本提携が改めて協議されていく予定です。
この大統領令は、G7が「ロシア産原油に取引価格の上限を設定する」計画を発表した直後の出来事です。日本に不利な条件が提示される可能性、または日本企業が排除される可能性があると関係者の多くは解釈しているようです。
ロシアは、反友好国への報復として発令したのだいわれています。


で、日本はどうするの?ロシアから撤退するの?

まだ、正確にはどうなるか決まっていないのですね。正直なところ、完全にロシアの原油・ガスがなくなれば日本だってかなりの打撃なのです。
三井物産と三菱商事の株価は、ハサリン2の大統領令が発表されたと同時に5%以上の大幅下落となりました。両社は、現時点はメディアを介してのコメントは控えている状態です。
今後の展開は、日本政府と話し合ったうえで慎重に決定していく方針だとのこと。
日本政府の方でも、今回の大統領令に関してかなり慎重に検討していきたいと、決定的な意見は避けている状況です。
日本の場合、米国とはエネルギー事情が大きく異なります。欧州ほどとはいかないまでも、やはり近隣国であるロシアへのガス依存は大きくなります。
そこで日本政府としては、経済制裁へ加担しつつも、できればロシアとの関係を悪化させたくないという事情があるようです。

しかし、ロシアから見れば、日本も米国に同調して反ロシア体制を強めているとの見方なのですね。
ロシア側の日本に対する応対が今後、急変する可能性があるというわけです。

米欧の非ロシア・打倒ロシア思想が継続される限り、小さな島国に住む日本は米国が敷いた路線から外れるわけにもいきません。かといって、ロシアを完全に敵に回すのもいろんな意味でリスクが高すぎます。
G7を名乗る一国である以上、現時点での選択肢はなきに等しく非常に難しい立場にある、というのが今の日本の状況です。

今後の欧米の出方次第によって、日本とロシアの関係も影響を受けていくといえるでしょう。

仮に、このままロシア排除思想が強化・継続されたとして、一体その先には何が待っているというのでしょうか?
ロシアへの経済制裁は解決への糸口なるどころか、むしろ悪化の一途をたどるばかり。ロシアは、未来の主要エネルギーといわれる再エネに必要な資源の宝庫でもあります。今後もロシアとの関わりを一切排除していくには限界があります。
にもかかわらず、ウクライナ・ロシア問題を、片方側だけの視点から見ていく限り、和解と終局はどんどん遠ざかるばかりです。なぜロシアが侵略を決意したのか、何を求めているのか、ここにきて中立的な立場から解決策を追求すべきだとの声もあがっています。
インフレ・リセッションを根底から解決するために、必要なのは武器や制裁・利上げではなく、和解に向かうための新たな外交的アプローチこそ、今強く求められるべきだといえるでしょう。

