原油価格の乱高下が続く中、最近では下降に向かう動きが目立ってきました。
サウジアラビアのエネルギー相は、現実の需給関係と原油先物の取引価格との格差を指摘。現物の取引価格とWTI原油との価格には大きな隔たりがあり、投資家の不安が必要以上に大きいことを懸念しています。
今後、原油価格を正当に調整していくにあたって、サウジアラビアは減産の準備を整えていることを発表。その他OPECプラスの主要国もサウジアラビアの意見に賛同。
上昇の材料がありながらもイラン核合意の可能性と、原油価格高騰・暴落の可能性も浮上してきています。 今後の原油の方向性に戸惑う投資家も多いでしょう。
そこで、サウジアラビアやイラン核合意の最新動向・今後の展開を軽くまとめておきたいと思います。
WTI原油は8月25日に95.76ドルの高値をつけて以来、再び91ドルまで下落。8月27日現在は、91.70~92.60ドルあたりで推移しています。
WTI原油先物/NYMEX

ここ数か月というもの、数分刻みに1ドル、2ドルと価格が動くことも珍しくありません。これまで以上のボラティリティの高さで、投資家心理を混乱させているようです。
2月末以降(ロシア・ウクライナ問題以降)のWTI原油の騰落率をVIX・NYダウ平均とで比較してみました。
WTI原油・VIX・NYダウ平均 騰落率比較チャート

ダウ平均は下落傾向にある中でもほぼ横ばいに推移。原油の値動きに比べればほとんど動いていないともいえます。
VIXは3月と5月・6月に50~60%のピークを迎えた後、7月・8月は収束に向かっているよう。
WTI原油はVIXの動きに合わせるかのようにピークを迎えた後は、2月末あたりの価格へと収束してきています。
7月・8月以降の原油は、タイトな原油の在庫状況にて、さらなる価格高騰が期待される一方では、FRB利上げによる需要低迷と、イラン核合意の再建が懸念されているようです。
WTI原油 1分足チャート

時には、上昇への期待から大きく価格は上に向かうこともあれば、その数分後にはまた急落するといった、予測不可能な激しい値動きが見られています。
原油価格を左右する最大の要因は原油の需給バランスです。
原油の需給バランスは・・・
- FRBの利上げ観測 → 利上げが進むと需要低下?
- OPECプラスの生産調整 → 減産か増産か?
- イラン核合意の展開 → 合意すれば供給増?
- ロシア・ウクライナ問題 → ロシア産原油の生産量が低下?
- インフレ・リセッション → 需要低迷?
- 米・中・欧の経済展望 → データが良好なら需要増?
など・・・ 1つ1つのデータや噂が原油価格を上に下にと大きく動かしています。
「今下がっているうちに、買っておくべきか?」「買い増しのチャンスか?」
「もう原油上昇の波は尽きたのか?」「まだこれから下がるのか?」
様々な思惑が入り乱れ、身動きがとれない投資家も多いのではないでしょうか。いったい、今後どのように原油価格は動いていくのでしょうか。
原油の需給バランスがどうなのか、その時々の市場の見方によって原油価格は乱高下していくわけですが、とくに最近注目されているトピックが2つあります。
原油価格を読むうえでの注目トピック
- サウジアラビアの減産
- イラン核合意の展開

1つはイラン核合意がどうなるか、そしてもう1つはサウジアラビア・OPECプラスの減産の可能性です。
それぞれの現時点での状況をチェックしてみましょう。
2021年以降、米バイデン大統領はイラン核合意の再建に向けて交渉を開始。2022年3月以降は、とくに深刻なエネルギー高とインフレを解決すべくイランとの合意に向けて積極的に働きかけていました。
合意が成立すれば、米国はイランへの経済制裁を解除します。そうなるとイランからの大量の原油・天然ガス供給が期待できるわけです。
2022年8月8日、同様にイランからの原油供給を期待する欧州の仲介によって、大幅に譲歩した交渉内容の「最終文書」を提出しています。現在はイランからの返答待ちの状況です。

米情報誌「Foreign Affairs」によると、合意の持続性をイランは疑問視していて、おそらく米共和党によって再び壊滅に向かう可能性があるとの見解です。
バイデン氏の任期はあと2年。2024年以降も合意が継続されるかどうか保証はないと見ています。
また、仮に合意された場合でも、イランの原油・天然ガスが市場に流出するには早くとも5,6か月はかかるといわれています。今すぐ、一夜で供給量が増えるわけではないのですね。

WTI原油は、FRB利上げとイラン核合意の可能性から急落に向かいましたが、決定的な下落要因としては利上げも核合意もまだ不十分な状況にあるといえます。
今回の原油価格の急落に関しては、一時的に投資家心理が悪化しただけかもしれず、価格は回復に向かいつつあります。
イラン核合意の可能性が注目される中、突如として発表されたのがサウジアラビアの減産予告です。

サウジアラビアのエネルギー相は、8月22日Bloombergとのインタビューにて現在の原油市場が現実の需給バランスを十分に反映していない、現物の取引価格と大きな隔たりがあることを指摘。
「OPECプラスはいつでも減産調整に入れるよう準備をしている」と表明しました。
サウジアラビアが減産予告を発表したのは、実は米国とイランの核合意再建に反対しているからだともいわれています。
もともとサウジアラビア、イスラエル、アラブ首長国連邦はイランと敵対する関係にあります。前大統領トランプ氏が核合意の離脱を決意した背景には、サウジなどのイラン対立国との連携・同盟があったわけです。

しかし、今回バイデン大統領が合意に向かうことによって、イランと米国の関係が修復され、中東におけるイランの立場が強くなってしまいます。そのことに対して、サウジはいわゆる報復のような形で米国に対して減産を強調していると見ることもできるのです。
おそらく合意が現実となれば、サウジ同様に、イスラエルやアラブも米国への当てつけがごとく原油・天然ガスの減産体制に入ることが予想されます。
原油価格の今後の展開を見ていくうえで、非常に重要なポイントとなるのが、中東・OPECプラスとその他原油産出国のこれまでにはない協調体制です。
実はイラン核合意の結果は、そこまで原油価格には影響しないとの見方もあります。
というのも中東・原油生産国は結局のところ、原油高を維持する方向に生産調整をして互いに協力しあうからです。このように動くのは、米国シェールオイル関連企業も例外ではありません。

例えば、米国の圧力からサウジやアラブが増産を発表すれば、カザフスタンやベネズエラなど他国の供給難が報道。裏でつながっているのか?と思えるほど、トータルの供給量は結局のところはプラスマイナスゼロかマイナスに終わるケースが増えています。
脱炭素への動きが避けられないこともあり、原油生産国や企業の方でも今後生き残っていくために必死です。まさにエネルギー高に向かいやすい現在の状況は、国を問わず多くの原油生産者にとって「今のうちに」といった稼ぎ時の正念場でもあるのです。
プラスアルファで考慮しておきたいのが、もちろんロシアへの経済制裁。今後も変わらず、欧米の脱ロシア政策が継続するなら、当然ながらエネルギーの供給はタイトとなりがちです。
従って、ファンダメンタル的にはやはり原油はまだ高騰の可能性を十分に秘めているといえるでしょう。

今回、見てきたようにファンダメンタル的な事実を並べてみると、原油で稼げる局面はまだまだこれからも続きそうです。
とはいえ原油価格は、市場はエネルギーに過剰に反応する傾向にあります。とくに最近では過剰すぎるほど敏速に売りが進む傾向にあります。
単純に原油の需給関係の事実を追求するだけでは相場動向は読めないのが現状です。すでに高値圏で推移しているだけに、つねに暴落の危険性があることを考慮しておく必要があります。
「短期トレードに徹する」「こまめに利確しておく」「その他商品でヘッジしておく」「一時的な暴落に対処できる十分な資金を用意しておく」など、それぞれでリスク管理を怠らないよう注意したいですね。

